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第91話:牢屋内での拷問?

 


 ☆


 牢屋番の姿に変装した長は、彼等を捕らえている牢屋へと足を進めた。

 そして牢屋に到着してみると、牢屋の前に立っていた牢屋番が何やら心配そうに牢屋の方を見ているのが気になり長は声を掛けた。


「何かあったのか?」


「長様。相談に行こうかと思っていたところです」


「?」


 牢屋番は長の姿に一瞬不思議に思いながらも、耳を澄ますように頼んできた。

 何事だろうと従ってみると、牢屋から少女の悲鳴が度々聞こえてくる。

 更に柔らかい皮膚を鞭で叩くような音が響いて来た。


(まさか、人間への恨みから指示も出していないのに拷問を既に始めているのか!?)


 非道な命令違反に長は怒りを露にし、牢屋番を睨み付けた。


「誰が拷問をやっておるのだ!?至急止めさせよ!」


「違うんです!誰も拷問はしてはおりません!」


「現に悲鳴が聞こえているではないか!」


「龍人族です!彼が、少女にベルトで鞭打っているのです!」


 叫び返すように言う牢屋番の言葉に長は動きを止めた。

 言われた意味が理解出来なかったからだ。


「か、彼等は仲間ではではないのか?」


「それがサッパリ判らないのです。いくら人間と言えども、幼い子供の悲鳴は聞いているこちらも流石に可哀想で……」


 いったい中で何が起きているのだろうか?

 長は生唾を飲み込むと、そっと様子を窺う事にした。


 牢屋にはいくつか部屋があるが、今使っているのは4人を閉じ込めている一番奥だけだ。長は、足音を立てないように会話が聞き取れる牢屋の中に入り、壁に耳を当てた。


「ミレイ。また、魔力が身体の外から溢れてる」


 ”ビシッ”

「ウグッ!!」


「な、なぁ、カッツェさんよぉ。い、いい加減にしろよ。ミレイが可哀想だろ?」


「そうですよ。魔力を調整するなんて早々簡単に出来るものじゃないんだから、何もこんなところでやらなくったっていいと思うんだが」


 獣人と魔族が止めようとしているらしい声が聞こえてくる。

 だが、龍人族は聞く耳を持つ気は全くないらしく当然の事のように答えた。


「どうせやる事があるわけではないのでいい機会です。目が覚めてからと言うものミレイは魔力が駄々漏れ状態でしたからね」


「いや、だからってそのベルト、龍鱗で出来ているんだろ?殺傷能力それなりにあるだろうが」


「それに、これからの事を考えなくてはならないわけですし」


「龍人族たる者、考えながら鍛えなくてどうするのですか?」


「いやいや、ミレイは龍人族じゃねぇだろが。多少、いや、結構丈夫だけど、一応人間なんだからさ、これ以上はヤバイって。考える余裕なんてあるわけないだろ?」


 その通りだ。手加減は恐らくしているだろうが、強固な鎧のような龍鱗で防御力の殆どない人間のしかも更にか弱い子供の皮膚を鞭打てば、一度だけであろうと皮膚は裂ける事だろう。

 だが、その意見も龍人族は却下した。


「自動回復スキルがあるので問題ありません」


「……いや、自動回復スキル……レベルダウンしているのだけど……」


 拷問を受けていた少女は龍人を恐れる事なくそう呟いた。

 聞き惚れずにはいられない楽器のような美しい声。

 壁越しの長でさえうっとりさせる声相手にも、龍人は動じる事もなく寧ろ冷酷な台詞を当然の事のように呟き返した。


「おや?そんな事を呟く余裕があるなら問題ないな。だが、呟く暇があるなら魔力制御と平行して、交渉方法を考えろ」


 ”ビシッ!”

「ギャウッッ!」


 少女の悲鳴で我に返った長は、その間に出ていた会話が漸く頭の中に入ってきた。

 そして、その信じられない会話の内容に今度は驚きのあまり声を出そうとし、慌てて自分の手で口を塞いだ。


(な、なんとあの娘。自動回復スキルを持っているというのか?)


 自動回復スキルというのは、自動で身体の傷を癒すスキルで中位の能力である。

 中位といってもユニークスキルの一つであるそれは、実質上級にランクしてもいいほどのものだ。

 だが、そのスキルがあったとしても精神的な苦痛は回復する事はないし、自動回復を使っているなら当然魔力も作動し続けているハズだ。

 人間にそんな事が出来るわけがない。

 人間の子供と思っていたが、もしかしたら違うかもしれない。

 なぜなら人間は魔力が少ない。

 それこそ賢者と言われる者以外は、リザードマンの持つ魔力よりも少ないと聞いている。

 そんな人間が自動回復スキルを使い続ければ、たちまち魔力切れを起こして倒れてしまう。

 ならば、彼女は人間ではないのだろうか?

 いや、獣人は彼女を『一応人間』と言っていた。

 一応とはどういう意味なのだろうか?

 人間と魔族の間の子という意味で言った台詞ではないように感じる。いや、長自身の見立てでもその可能性はない。

 いくら魔族の外見が人間と見分けがつかないものがいるとしても判断出来る自信がある。


(もしや、我々はとんでもない者を閉じ込めているのではないだろうか)


 長の頭にそんな考えが浮かび、身震いを抑えられずにいた。



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