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第90話:悩みの種




彼は頭を悩まされていた。

大切な仲間を人間に、しかも無惨に殺され、敵を討とうと準備をしていた時にやって来た者達のせいだ。

ただそれだけならば彼も悩ませるような内容ではない。


彼が悩む最大の理由は、彼等はそのまま捨てておくわけにはいかなかったからだ。何故なら、彼等は全員の種族が異なっていた。


一人は憎き人間だ。

その者、年の頃は10歳に満たない位の子供だというのに、その顔は人間の残虐さが知れる凶悪な顔をしていた。

だが、その少女の纏っている衣服は龍人族の民族衣装で同じ衣服を見に纏っている龍人族が彼女を護るように傍に控えている。

それだけではない。

リーダーと名乗る者は獣人族だったのだ。

 獣人族は人間の奴隷として扱われている事は、この集落にも聞こえてきている。

 人間の少女は隠しているつもりかもしれないが、彼女から溢れ出ている魔力は非常に高い。

 それこそ、最後の一人である青髪の魔族が霞んで見えてしまうほどに。

 それほど大きな魔力を持った者が、彼等が下に見ている獣人族を頭に抱いて納得するわけがないのだ。


 だが、彼等の言動は人間を下に抱き、人間は獣人を上に見ているとの事だった。


 門番を軽く倒す事が出来る魔力を持った人間は何故かあっさり捕まり、その際に抵抗をしようと試みた獣人と魔族を宥めていたとの事。そして、その時の会話から獣人がリーダーだと窺えたらしい。


 それというのも、なんと獣人が人間を呼び捨てにし、人間はそれに怒る事なく敬語を使い、抵抗しないように頼んでいたと言うのだ。

 それを聞いたら、獣人がリーダーなのだと認めないわけにはいかない。


 いや、もしかしたらそれは我々を油断させるための罠だと言う考えも捨てきれない。


 いくら考えても解決策は見出だす事は出来ず、憶測ばかりが浮かんでくる。



「父上。何故にあの者達を捕らえたままにしておかれるのですか?」


「真意が判らぬからだ」


「その様な事、決まりきっているではないですか。あの者達は大和国の方からやって来た。つまり、敵です。

 大和国の魔王は元勇者。我々の憎むべき人間です。その者が遣わせた者達ならば人間の味方をする悪き者達。しかも、大和国は人間を現在守ろうと我らの動きに目を光らせている。その点からも敵だと認識可能です。

 違いますか?」


 まだ若いながらも集落の将として全軍を指揮する立場となった息子を誇らしく思う男だったが、同時に一族の長としては残念な思いを抱かずにはいられない。

 この子は血気盛ん過ぎて思慮に欠けるところがある。


「事はそう単純ではないのだハルトよ。あの人間の娘を見たか?」


「勿論ですとも。あの残虐性に満ちた顔を見て、私は人間はやはり滅ぼすべきだと判断しました。あの者は我等リザードマンだけではなく、全ての種族にとって悪の象徴となるに違いありません」


 果たしてそうだろうか?

 男は息子の意見を素直に受け入れる事が出来ずにいた。


 本当に害悪なら、何故彼女はあっさり捕まる事を選んだ?

 自分達を引き付け役にして、大和国か人間達が攻め込む隙を作ろうとしているのだろうか?

 もしそうだとしても、ならば獣人と魔族が抵抗しようとしていた事が矛盾となる。

 そして、何より気になるのは……


「顔の事ではない。彼女の服装を見なかったのか?龍人族の衣装を身に纏っているのを見てなんとも思わなかったのか?」


 我等の上位種族に値する龍人族の衣装を身に付け、龍人族を傍らに付けている事にハルトは何も感じなかったのか?

 そんな疑問をぶつけると、ハルトは鼻を鳴らしながら呆れたように答えた。


「確かに龍人族は我等より上位種。ですが、人間に衣服を与え、奴隷のように仕えているあの様を見て、失望しましたよ。

 人間ごときにいいように使われ、平気でいるとは龍人族も落ちたものです。長い間、国に引き籠った結果でしょうな。父上も御覧になったでしょう?

 龍人族とはとても思えないあの白くて細い筋肉を!

 あのような鍛え方では人間にいいようにされて当然というものよ」


 鍛えていない?

 男は頭の中でそれを否定した。

 鰭の色から判断するにあの青年は青龍様の加護を受けている。青龍様の加護を受けた民は皆強靭で隆々とした筋肉を持っているが、あの青年にはそれがない。

 だが、だからといって鍛えていないわけではない。

 不要な筋肉を極限まで減らして、最大限の力を発揮する事の出来るしなやかな筋肉を身に付けている。

 それは、計算して鍛えた証拠となるのに何故息子はそれが理解出来ないのだろうか?


「もうよい。お前は兵達の訓練をしていてくれ。牢屋の者達には今はまだ手出しをしてくれるな」


 父親の言葉に納得出来なかったハルトは口を開こうとしたが、父の様子に諦めたように舌打ちをして部屋を出て行った。

 男は息子が去ったのを確認すると、大きく溜息を吐いた。


(こんな時にタクトがいてくれれば儂の悩みも軽くなるだろうに……)


 沈着冷静で、あまり言葉を発しようとはしないが一つの出来事に対し多角的に考える事の出来た最も頼りになる次男の姿を思い浮かべた。

 タクトならあの者達を見て、なんと答えるだろうか?


 男は暫く思案すると、やがて席を立ち行動に移った。


「先ずは、様子を見に行こう」


 本心を探るには牢屋での過ごし方から判断するのもいいかもしれない。

 男はそう判断し、牢屋番に変装しそっと中を窺う事にした。




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