第89話:待てば海路の日和あり
城に戻ったあたしは、謁見の間にイレイザさん、フリューゲルさん、凜兄にエーデルさん、そしてカッツェさんとトールさんを集めた。
夜中だったから悪いかなとは思ったけれど、緊急性が高いから仕方がないよね。
だけど、何故か呼んでいないファティマ様までやってきた。
「何故ファティマ様までここに?」
あたしがそう尋ねると、彼女は胸を張ってハッキリと答えた。
「楽しそうなニオイがしたからじゃ」
楽しそうって……全然、全く楽しく無いのだけど……
まぁ、来てしまったのは仕方が無いので、あたしは話を始めた。
「そんなわけで、恐らく、彼等は大和国も敵の可能性があると考えているかもしれません。ですから、メンバーはタクトさんをよく知っているイレイザさんと、フリューゲルさん、そしてあたしとカッツェさんで行こうと思ってます。ですが、イレイザさんの体調も気になったので……」
イレイザさんは獣人だ。獣人なら相手も少しは話しを聞いてくれるかもしれないので是非来て貰いたい。
だけど、もし乱闘になった場合、怪我をしているイレイザさんの負担になる。それが気になったのだ。
そんなあたしの気持ちを察したのか、イレイザさんは爽やかな笑みを浮かべながら任せろと頷いてくれた。
「ですが、傷の方は大丈夫ですか?」
「こちとら獣人だよ。丈夫さが取り柄なんだから安心しろって。それにさ、リザードマンの良さを一番知っているのはあたしらシュヴァイゲンだ。だから、ダメって言われようと付いていく。だろ?フリューゲル」
「ああ、勿論だよ。リザードマンは心優しい種族だ。そんな彼等が人間の敵になるような事は避けたい。きっと、タクトも人間との平和的解決を望んでいる筈だからね」
「ありがとうございます」
良かった。これで、少しは話し合いの望みが出て来た。
あたしの顔は悲しい事に交渉には向かないしね。
話し合う前に捕らえられそうだし、上手く話が出来ても企んでいると思われる可能性もある。
そんな風に思っていると、凜兄が却下してきた。
「彼等は今、激昂している。そんな相手と話し合いなんて困難だ。特に、美麗。お前の顔で交渉しても相手は警戒を露わにするに決まっている。
油断させておいてから一匹ずつ攫って皮を剥ぎ、食べられるに違いないと考えるだろう」
ちょ、ちょっとそれは流石にないでしょうが!
皮剥いで食べるっていくら何でもそこまで猟奇的な人間には見えないよ。
そう言おうとしたら、ファティマ様が確かにと頷いた。
「そなたの顔は魔族の中でも輝かんばかりの凶悪顔だからのう?知らぬ者が見れば、警戒するに決まっておる」
なんか、楽しそうですよ。ファティマ様。
「ならばこちらに攻撃の意思はないと証明する為に、武器は持たずに行きましょう」
すると、エーデル様が席を立ち上がり、激しく反対してきた。
「丸腰だなんて危険過ぎんす!いきなり襲いかかって来るかもしりんせん!!」
「リザードマンは確かに普段は大人しい。だが、仲間が殺されたとなっては彼等は全力で戦う。彼等の戦闘能力はB⁺ランクだ。
エーデルの言う通り丸腰は危険だぞ」
「だけど、武装している相手に話合おうなんて奇特な人はいないでしょ?
それに丸腰って言うけど、あたしはいざとなったら魔法を使える。詠唱省略どころか無詠唱だって使えるのは凛兄だって知っているでしょ?」
武装は絶対にしない。
あたしは頑としてそう訴え続けていると、埒が明かないと思ったのか、凛兄はカッツェさんに助けを求めた。
「おい、この頑固者を何とかしてくれ」
「何故だ?」
カッツェさんのそんな問い返しが意外だったのか、凛兄は目を丸くした。
「何故って、判るだろう?危険なんだ。美麗に万が一の事があってもいいのか?」
「いい訳がないだろう」
「ならば止めろ」
「私にその気はない。ミレイがそう望むなら私はそれに従うだけだ。
イレイザさん。あなたは獣人だ。ならば拳闘術は使えますよね?」
そう振られてイレイザさんは何を当然の事をとでも言いたげに頷いた。
「獣人は本来武器は持たない。武器なんて持っていたら素早く動けないからな。あたしが剣を持っているのは元々コロッセオで剣闘士をしていたからだ。
それに拳だと、返り血が半端ないから使わないだけで、剣術よりは遥かにレベルは高いぜ」
「だそうだ。ならば、丸腰ではない。因みに私も杖がなくても詠唱省略を使えるし、やろうとすれば無詠唱も出来る。問題はない」
そう言いきるカッツェさんに凛兄はなおも食い下がった。
「だからって危険な事には変わりねぇだろうが」
「危険だからって避けるわけにはいかないでしょう?全ての人間が悪いわけではないって事を信じて貰わなきゃ人間とリザードマンの間で戦争になっちゃうんだよ?それだけは避けなきゃ。だって、本来は平和を望む種族同士なんだから。
それに、戦争になったらヤバいのはリザードマンだし」
人間単体は非常に弱い。
だけど、人間はそれを補う為の兵器を開発するのが上手い。
そして、戦う時は圧倒的な数で攻め込む。例え1万人犠牲になってもまだまだ余力がある彼等にリザードマンが敵うわけがないのだ。
「凛兄が何を言おうとあたしの決心は変わらないから」
「ならば私も一緒に行こう」
遣り取りを見守っていたトールさんがそう言ってくれたけれど、あたしは速攻で却下した。
「トールさんは龍神国に戻って下さい。これ以上、国の皆を待たせるわけにはいかないので、街作りをお願いしたいんです」
「だけど、この状況ではユウキ様は動けないから先にこちらを解決するべきだと思うよ」
「確かにそうですが、ファティマ様は動く事が出来ます。ですので、ファティマ様の担当である街並みを先にした方が、建築しやすいと思うのでどうか国に戻って建築を進めて下さい。
ファティマ様お願い出来ますか?」
あたしがそう尋ねるとファティマ様は凛兄より先に龍神国に入れるのが嬉しいという表情を隠す事なく、快諾してくれた。
「無論じゃ。早速、技術者を呼ぶ事にしよう」
「ありがとうございます。トールさん、そんなわけですからよろしくお願いします。一族の最長老であるトールさんの言葉ならあたしがいなくても国の皆も納得してくれると思うので」
トールさんは暫く渋るような表情で何かを考えていたけれど、やがて首を縦に振った。
「解った。従う事にするよ。だけど、呉々も無茶な行動をして私が後悔するような事にはならないようにして欲しい」
「絶対後悔はさせません」
そう約束して、意気揚々と出かけていったあたし達だったのだけど……
「やはりこうなるのだな」
「オカシイなぁ。何故こうなったんだろ?」
「何故も何も、その顔以外の理由が何処にある?」
「ですよねぇ。やっぱり」
「てか、お前等何で落ち着いているんだよ?牢屋に閉じ込められてんだぞ!?」
「そうだよ。もしかしたらこのまま処刑される可能性があるかもしれないとは考えないのかい?」
そう、もうおわかりですね。
あたし達は今、牢屋にいます。
リザードマンの集落に到着するなり、速攻で門番に捕まってそのまま此処に放り込まれたわけです。
いやぁ。3度目になるともう既に慣れっこですわ。
カッツェさんも落ち着いた様子で牢屋の隅で腰掛けているものだからフリューゲルさんとイレイザさんはあたし達の落ち着きっぷりに苛立っているようだ。
「まぁ、その可能性はゼロではないですね」
「だけど、何とかなりますよ」
あっさりそう答えるあたし達に、イレイザさんはなおも言ってきた。
「何とかなるって、どう何とかなるんだよ」
「大人しく捕らわれているわけにはいかないでしょう。何とかして脱出方法を考えなくては」
何ですと?脱出って脱獄するって事?
いやいや、ダメだから。そっちの方がダメだから!
「二人とも冷静になって下さい。あたし達は話し合いに来たんですよ。脱獄するような相手とまともに話そうと二人だったら思いますか?」
「確かにそうなんだけど、このままってワケにもいかないだろ?」
「大丈夫です。彼等はあたしの顔の、き、凶悪さに怯んで捕らえただけです。殺そうとはせずに捕らえた。
ならば、話し合いの余地はあります」
う、自分で自分をディスるとダメージがでかい。
「何故君はそう断言出来るんだい?」
あまりに自信満々であたしが言い切るモノだから流石にフリューゲルさんは何かあると思ったらしく、あたしの言葉に不思議そうに首を傾けた。
「今までの経験上、牢屋で大人しく過ごしていれば話す時間が必ず生まれたからです。
牢屋にいる者より外にいる者の方が有利に事が運びます。ですが、牢屋で暴れている者には心理として警戒します。よって、警戒されずに事を運ぶには大人しくしているのが一番なんです。そうすれば、あちらさんは心に余裕が出来るので必ず話そうという気になってくれます」
実際は青龍の集落での経験だけなんだけどね。ノザリンは助けてくれる人を呼んだから何とかなったわけだし……
「『待てば海路の日和あり』ですよ。お二人とも」
話を締めくくるべくカッツェさんがそう言うと、二人は納得してはいないようだったけど大人しく従ってくれた。
お待たせしてしまい、申し訳ございません。
リアの事情、1月までと書いたのですが、もう少し続きそうなので、更新かなり牛歩です。
本当にすみません……




