表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/97

第81話:観客が増えているんですけど

 


 遂に交渉当日の朝がやって来た。


 手にはびっしり書かれた原稿、あたしの右側にはカッツェさん、そして左側にはトールさんが立っている。

 あたし達はトールさんが用意してくれた龍人族の民族衣装に身を包んで準備満タンだ。


「さぁ、相手は何もミレイさんを取って食べようとは思っていないのだから気楽に行こうじゃないか」


 いつものように気楽そうな口調でそうあたしを励ましてくれるトールさん。


「何かあれば必ずフォローするから安心しろ」


 いつでも頼っていいぞと言ってくれるカッツェさん。

 そんな二人に囲まれてあたしは肝に力を込めた。

 あたしは一人じゃない。頼もしい人達が傍にいてくれる。

 そう思うと勇気が湧いてきた……ハズ……だったんだけど……


「今日はお二人の魔王にも来て頂いた。有意義なものとなるよう期待する」


 って……聞いてない!聞いてないよぉ‼

 なんでギャラリー増えてんのよ!

 てか、いかにも裕福そうな宝石に包まれた何故かピアスが桶の形をしているものをつけてるやたら迫力のある妙齢の美女に、黒いスーツに身を包んだ厳格そうな紳士ってどんな取り合わせなのよ!


「今日は面白いものが見られるという事。楽しみにしてる」


「そなたの交渉見定めさせて貰う」


 イヤァァァッッッ‼怖い!その笑顔が怖い!

 ヤバイ。あたし、上手く出来る気がしない。


 お腹から喉へと苦いものが込み上げてくるのを我慢していると両側からあたしの腕をそっと掴んでくる手があった。

 その暖かさにあたしは二人を見上げると、彼等は大丈夫だと微笑んでくれていた。

 そうだ。あたしは一人じゃない。一人じゃない。


「今日は遠路遙々御足労頂きありがとうございます」


「おや、トールではないか。久しいのう。かれこれ五百年ぶりくらいかえ?」


「長い間御尊顔を拝みに来ず、誠に申し訳御座いません。ファティマ様におきましては相も変わらず美しくてあらせられて」

「よいよい。そなたに言われると気持ちが悪くなる。昔のようにしているがよい」


 本当に気持ちが悪いらしく、嫌そうにファティマ様は顔をしかめて手で払う仕草を見せた。

 そんな彼女をトールさんは楽しそうに笑っている。

 うーん。これってもしかしなくても仲が良いのかな?

 ならばきっと怖い人じゃないのかもしれない。


 そんな事を思っていると、ファティマ様は念を押すように続けて言った。


「古い付き合いとはいえ興味なき事は却下するゆえ、心して取り掛かるがよい」


「ならば、興味を持たせればいいだけですよね?」


 牽制的な意味を含めてあたしがそう答えると、ファティマ様は長い睫毛を揺らしながら目を細めた。


「ほう?言うたな?では、その言葉大言壮語の類いでない事を期待するぞ」


 ヤバイ。自分でハードルを上げてしまった。

 だけど、新しいものが好きならきっと食いつく。

 それに、桶のピアスなんて着けているくらいだもん。たぶん、珍しいものだって好きなハズ!ならば、この案だって絶対気に入るハズ。

 この人が食いつけば交渉は有利になる。

 厳つい人はどうか判らないけど、準備は充分したワケだしなんとかなるかもしれない。


 幸い右を見ても左を見ても、如何にも魔族って人ばかりだしあっちの世界よりあたしにとって居心地がいい。だから緊張なんてするワケがない。

 そう無理矢理思い込みながらあたしは玉座に座る凜兄を見上げた。


 魔王モードなのだろうか?

 凛兄は凛々しく口調も普段とは違う。

 ならば変な事を言おうが、あの席から飛んできて蹴られたりする事もない。


 あ、なんだ。今のこの雰囲気はあたしからしたらやり易い環境だわ。

 変な事を言っても凛兄はあたしをからかえる場所にはいない。あたしと競えるくらい怖い顔の人もいるから怯えられる事も難癖をかけてくる人も恐らくいない。

 イレイザさんは後ろの方で興味津々で話を聞く体勢バッチリ状態だし、両隣には頼もしい仲間がいる。

 こんな恵まれた状態で話が出来るなんて今まで生きてきてなかった事だ。


「さぁ、美麗よ。そなたの話を聞かせて貰おう。皆の者、感想を呟くのは自由だが、質問は彼女が話し終えた後に受け付ける。その間、質問事項を頭の中で纏めておくがよい」


 あらん。凛兄ってばこの世界に来てから少し優しくなったのかしら?

 少しでもあたしが話しやすいように場を整えてくれるなんて昔だったら絶対にしなかった事だよ。

 凛兄の変わりように少し驚きながらも、あたしは大きく深呼吸をしてから交渉の口火を切った。


「皆様、初めましてミレイ・サトーと申します。

私は現在、縁あって龍神国に滞在しております。龍神国は長い期間鎖国をしていたので、争いのない平和な生活を送っておりました。ですが、現在人口過多により、需要と供給のバランスが崩れてくるという問題を抱えております。

 そこで、その問題を解決させる為に、龍神国の一部を開き、観光地として名を広める事となりました。その街の完成予想図がこちらになります」


 壁に模型と赤龍の集落を合成させた映像を映し出される。

 すると、周囲から歓声が上がった。

 大和国の住人にとっては親しみ深い映像に違いない。


「皆さんにとって馴染みのある街並みと映る事でしょう。今回、私達が貴国に来た理由は正にそこにあります。グリック商会の長の方からこの国に似ていると聞き、是非建物の建築技術を伝授して頂こうと思ったのです。観光地内の道は既に整えており、後は歩きやすいように砂利や石畳を敷く段階です。

 また、水道の整備も終えておりますので、いつでも清潔な飲み水が街のいたるところで飲む事が出来ます。

 この建物はこの後で説明させて頂きます温泉を楽しむための宿泊施設で、海の近い島国ならではの魚料理を振る舞わせて頂きます。

 また、食事なしの滞在も可能です。その場合、この長屋地域が商店街となっており、土産物を購入したり食事も楽しめるようになっておりますので、豪華にも慎みやかにも過ごす事が出来ます。それらは観光会社であるグリック商店がお客様の必要に会わせた旅行計画を提示しますので、庶民も危険度の少ない旅をこの地で味わって頂けます。」


 あたしの言葉に合わせて映像が次々に変わり、その度に人々の表情がクルクル変化し、水道の映像に至っては「素晴らしい」という声が聞こえてきた。

 やはり、水道が整備された街は珍しいらしい。

 ファティマ様が食い入るように見ている。

 だけど、映像は容赦なく切り替わり、今度は地獄谷の映像を見せた。


「こちらは地獄谷と呼んでおります。何故ならこの映像の奥は人が立ち入る事の出来ない場所になります。興味本意で入られた場合、忽ち窒息して死んでしまう事でしょう」


 その言葉に、会場は今までのざわつきが嘘のように静まり返った。


「私が最初にこの地に訪れた時は、人々は死の水が湧き出る正しく地獄のような場所だと嫌煙されていましたが、実はこの地こそが観光地計画になくてはならないものなのです。

 人々が嫌煙していた毒水の正体は硫黄という物質を含んだ温泉です。

 硫黄は身体の衰弱した者が大量に飲めば毒になりますが、少量ならば便秘改善になりますし、その湯に浸かれば神経痛、筋肉痛、関節痛、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、疲労回復、軽度の切り傷、慢性の皮膚病に効果がある薬湯となるのです。

 また、女性の方が気になる毛穴の黒ずみや吹き出物も殺菌して治すため、長期間浸かれば珠のような肌になるとも言われております。

 次は手前の小屋をご覧下さい。湯の花小屋と呼んでおりまして、この小屋で湯の花と巷で噂されている消臭水を作っております。湯の花と言っても植物では御座いません。温泉の成分が固まった結晶でして、これを湯に入れれば同じ効用を味わう事が出来ます。

 いかがでしょうか?この新しい事業に是非ともご協力をお願い致します」


 言いたい事は言い切った。後は質疑応答だ。

 どんな意見が飛ぶだろうか?

 あたしは周囲の様子を見回してから凛兄をまっすぐ見据えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ