第79話:時間軸の問題
皆さんお久しぶりです。
最近、佐藤美麗というよりカタカナ読みが馴染んでいるミレイ・サトーです。今あたしは大和国に来ています。
この国あたしにとってとっても居心地がいいんです。
何故なら魔王の寝室は畳の床なんですよ!
ベッドはあるけど畳の上!
これって、和室なのに無理矢理洋風の机やベッドを置いた、日本人特有のお部屋じゃないですか!
あたしの部屋もこんな感じだったからもう滅茶苦茶癒やされまくってます!
だけど、中々傷が治ってくれなくて本来の目的を果たせずにいます。
皆には申し訳ないと思ってはいるけど、それよりも気になっている事があったりする。
だって、だってね、魔王があの凛兄だったんだよ!?
確かに小さい頃から凛兄は何かというとあたしをからかってきていたし、身体を鍛えるとかワケ解んない事言ってあたしをアスレチックの一番高いところに放置して自力で降りて来させるとか酷い事ばかりされたし、魔王の素質は十分にあるとは思う。
そんな凛兄とは何年もあたしは会ってなかった。
苦手だから連絡しなかったってのもあるけど、あたしが高1の頃に海外に渡り、サッカーチームでスーパースターとして活躍していたから疎遠になってたのだ。
そんな人と、こんな異世界で再会って何の冗談なんだろ?
というか、一体いつこの世界に来たんだろ?
スーパースターが行方不明になったら大騒ぎになる筈なのに、ニュースにさえなってなかった。
それが妙に気になって、あたしは凛兄に聞いてみる事にしました。
あ、勿論『交渉スキル』を使ってだけどね。
「あ?俺が何歳の時にこっちに来たかって?高2の時だけど、それがどうしたんだよ?」
高2?あり得ない。だって、あたしの知っている凛兄は成人してる。
「凛兄の今の外見が若いからずっと気になっていたの。あたしがこっちに来た時、凛兄はサッカー選手で目下活躍してたからさ」
「マジか?」
あたしが頷くと、凛兄は首を傾げながら「どういう事だ?」と呟いた。
すると、横からカッツェさんが推測してくれた。
「多分なんだが、時間軸の関係なのだと思う」
「「時間軸?」」
あたしと凛兄がそう問い返すと、トールさんが横から割って入った。
「カッツェの予想通りだよ。聞いた事はないかい?
この世界は10億個の世界が集まって成り立っているって」
あ、それ、確か創生の神のお子様が最初に言ってた!
「沢山の世界の中には同じ世界だけど時間の流れにズレがある世界も存在する。
説明すると難しくなるけどユウキ様から見ると、ミレイさんは未来の人で、ミレイさんから見ると、ユウキ様は過去の人って事になる。
そう言うと更にややこしくなるから『時間軸のズレ』と私達は呼んでいる」
「……つまり、美麗のいた世界は俺からしたら『If』の世界って事か。
なぁ、美麗。さっきお前は俺がサッカー選手として活躍していると言っていたが、涼は何をやっているんだ?」
表情が強張ったままそう聞かれ、あたしは戸惑いながらも答えた。
「え?大学で考古学の講師をやってるよ」
「やっぱり考古学か……だが、排他主義のあいつが講師なんて務まんのか?」
「うちの大学ではスッゴイ人気だよ。若くてイケメンだから仏頂面でも女子の人気が高いし。あたしからしたらスパルタ過ぎて怖いけど」
すると、凛兄は懐かしそうに目を細めた。
「大人になっても相変わらずなんだな。だが、美麗の世界ではあいつは元気に暮らしているようで良かったよ」
あたしの世界では?何だろ?それって、まるで凛兄の世界ではそうじゃないみたいじゃないか。
「ね、ねぇ、凛兄の世界では涼兄は元気で暮らしてなかったの?」
「……」
凛兄の表情が曇る。もしかして聞いてはいけない事だったんだろうか。
重たい空気に話題を変えようとすると、凛兄は徐に口を開いた。
「高2の夏休みに田舎の祖母ちゃんに会いに行った飛行機が墜落したんだ。
俺と涼はその時に死んだ。いや、正確には俺は生きていた。墜落現場で意識を取り戻した時、俺は涼に抱きしめられていた。涼は胴体が両断されていて既に事切れていた」
「あの飛行機に……」
あたしが小6の頃にそんな事故が世間を騒がせていた。
あの日はあたしが木から落ちて病院に運ばれたんだけど、空港に向かおうとした凛兄と涼兄がそれを知り、あたしを心配して駆けつけてくれた。
そのお陰で墜落する飛行機に乗らずにすんで胸を撫で下ろしたという一幕があったのだ。
恐らく凛兄のいた世界ではあたしは木に登らなかったのだろう。
「……その日、あたし木に登って降りられなくなった猫を助けて木から落ちたの。だけど、枝の細い木だったから本当は登らずにそのまま去ろうとしてたんだ」
「そうか、そこが『If』の分かれ道だったわけか」
「凛兄はその後、どうやってこの地にやって来たの?」
「……そうだな。それを話さないとな。
一人生き残った俺だったが、それでも瀕死の状態だった。動く事の出来ない状態で涼の重みを感じながら命が消えるのを感じていた。だが、空から白く輝く球体が俺を包み込み女神と名乗る者が姿を現してな、自分の治める世界を救って欲しいと頼んできた。
断ろうと思ったが、その代わりに涼をこの世界の何処かに転生させると言ってきたんでな承諾した。
それからは女神教の勇者として魔王を倒したが、その娘のエーデルに一目惚れして今に至るってワケだ。
涼に関しては消息不明のままだ。この世界の何処かにいるらしいが、転生している以上姿も判らないし、いつ何処でとは女神も言ってなかったからな。もしかしたら寿命が来てとっくに死んでるかもしれないし、まだ生まれていないかもしれない」
それって約束が守られているかも判らないじゃないか。
あたしの時とかなり違う。
そう考えるとあのチビ神はかなり親切だ。
「俺の事よりお前の方はどうなんだ?その、転生と聞いたが……」
「うん。ふらついていた男の人を助けようとして代わりに死んじゃった。だけど、璃人兄さんは死んでないみたい。何処かの教会で召喚されているって青龍が言っていたから。でも、変なんだよね。召喚なら璃人兄さんはこの世界には必要な魂のハズなのに、創生の神は『不必要な魂が二つも来た』と言っていたんだよ。
あたし、それを聞いてあたしと璃人兄さんの事だと思っていたんだけど、もしかしたら涼兄の事を言っていたのかもしれない。だって、女神の上司が創生の神なんでしょ?
女神が勝手な条件を凛兄に提示したモノだから、対応し倦ねて涼兄を保留にしていたと考えられないかな?
まあ、あのチビ神の指す『あの世』が死者の国ではなくこの世界を指していたとしたらなんだけど」
そう振られ、暫く色々考えていた凛兄だったけれど、やがて投げ出すように声を張り上げた。
「神のする事ってのは全く判らん!まぁ、こんな所でグダグダ考えていても何も解決策が出てくるわけじゃねぇし、この話は保留にしておこう。その内判る時が来るさ」
疲れたとばかりに伸びをして、凛兄は話を終了させた。
「あぁ、そうだ。お前、俺に何か交渉する事があったんだろ?内容を説明する時は『交渉スキル』使うんじゃねぇぞ。俺は、お前らしいお前と交渉したいからな」
え?ちょっと待って。『交渉スキル』使うなって、そんな難題ふっかけて去らないで!
どうしよう。あたし、ちゃんと話せるだろうか?
素で話すという事にあたしは顔を引きつらせた。
果たして、あたしは上手く話せるのだろうか。
あぁ、不安しかない……




