第69話:イレギュラー
強制的に美麗の身体から追い出されたエーデルは愕然とした。
生まれてから一度も強制的に追い出された事がなかったからだ。
「ミレイ、ミレイちゃん。お願いでありんすからわちきを受け入れてくんなまし」
負担の掛かる気の散らせ方をしてしまった。一刻も早く戻らなければ状態が悪化する可能性がある為、エーデルは焦った。
そして、美麗にすがり付く勢いで訴え続けるエーデルにユウキが声を掛けた。
「一体何があったんだ?」
「わちきがお兄様でないとミレイちゃんが見破り、わちきを追い出したんでありんす」
「夢魔であるお前の姿を見破り、追い出しただと?ありえん」
ユウキがそう否定すると、カッツェが首を振った。
「ミレイが拒んだのなら充分有り得る。彼女の魔力は私の国にいる龍神の神子よりも遥かに高い。その上、意識調整のレベルが最高になっている。だから、喩え夢魔であっても意識の外に追い出されても不思議ではない」
その言葉にユウキがちょっと待てと制した。
「おいおい。カンストしているものが多くないか?まさか、ポイント割り振りして獲得しているのか?いや、そんな事したらポイントがあっという間になくなる筈だ」
「彼女曰く、使いきれない位のポイントを持っているらしい。どうやらギフトの一つのようだ。ミレイは複数のギフトを与えられている。ポイントは本来召喚された異世界人にだけ与えられるものだろう?
ミレイは転生してこの世界にやって来たが、何故かポイントを所有していた。
その他も普通の転生者とはあらゆる点が食い違っている」
「召喚ではなくて転生だ、と?」
転生と言われて、ショックを受けたようにユウキは声を詰まらせた。
転生したという事は、美麗は平成のあの世界で死んだのだ。
召喚された自分は所謂神隠しというものになる為、行方不明の状態だが、美麗の場合は、あの世界に冷たくなった身体が在るという事だ。
だが、何故外見が変わらないのか、魂だけしかない状態なら新しい身体をこの世界で得なくては生まれてくる事はない。
「嘘だろ?だって、外見は……」
カッツェは何かを探るように美麗を見ながら淡々と答えた。
「だから、食い違っていると答えた。
それだけではない。
転生者だというのに母親の身体から生まれたのではなく、空から落ちてきた。その時のレベルは既に100だった。
魔法を覚えさせるのが目的だと思われるが、異世界では22歳だったそうだが、14歳に若返っていた。
魔法やスキルの習得時間が異常に早い。また、それらのレベルを上げる事の出来るポイントを大量に保持している。
全力で走れば馬車より速い。無詠唱で魔法が使える。今、思い付くだけでもこれだけある」
「……ヒデェ冗談だ」
ユウキが頭を抱えてそう呟いたその瞬間、エーデルが怒りを露に二人を咎めた。
「お二人とも雑談なんかしていんす場合ではありんせん!今、ミレイちゃんは生死の境目にいるのでありんす!お二人はミレイちゃんが心配ではありんせんのか!?」
エーデルの言い分は最もである。
ユウキは直ぐに「すまない」と謝ったが、カッツェは動じる気配がない。
「心配していないわけではないのです。実は気になる事が少々ありまして、雑談をしながらとある存在の気配を探していました」
「気配?」
訝しげに言葉を返す二人にカッツェは頷いた。
「戦闘が始まってからずっとミレイの傍らにいたケセランパサランの姿がいなくなったのです」
「ケセランパサランって白い球体の白モコモコした粉妖怪か?」
ユウキがそう訪ねると、エーデルが忌々しそうに答えた。
「あの毛玉ならミレイちゃんの中にいたでありんす!魔力が高いクセに傍観者を決め込んでいんした」
「やはりそうでしたか。ならば、私が思念でケセランパサランにアプローチしてみます」
予想外の反応に二人は目を見開いたが、カッツェはそれを無視して美麗の身体に触れて意識を集中させた。
☆
一方ケセランパサランは、自分の意識に干渉してくる存在に驚いていた。
『ケセランパサラン、聞こえているのですか?』
『え、あ、あぁ。勿論聞こえているよ。驚いただけさ。いやはや龍人族はなんでもありだね』
冗談めかしたケセランパサランの言葉を無視してカッツェは続けた。
『ミレイと話がしたいのですが、貴方を通して直接話す事は可能な状態ですか?』
『可能だよ。だけど、身体は貸してもいいけど、それ以上は何もしないよ』
『構いません。貴方は、私がミレイと会話するようにして頂くだけでいいです』
言い回しにカチンと来るが、そういう事ならとケセランパサランは頷いた。
だが、一言を付け加える事は忘れない。
『言っておくけど、今彼女は交渉スキルが使う事は出来ない。つまり、身内以外はまともに会話出来ないよ。それでも君は話をするのかい?まともに取り合ってはくれないと思うんだけどなぁ』
『私とミレイの間にそのようなスキルは不要ですので安心してください』
かなりの自信だ。面白くないケセランパサランだったが、「ならばどうぞ」と投げ遣りに答えながら美麗と会話出来るように身体を明け渡した。
☆
ケセランパサランは視覚まで提供してくれたらしい。
私は暗闇の中央にいるミレイに近付いた。
「ミレイ。私が判るか?」
声を掛けると、ミレイは苦しそうな表情を浮かべたまま、私(正確にはケセランパサランなのだが)を見て訝しそうに口を開いた。
「なんか、カッツェさんみたいな口調だけど、急にどうしたのよ?」
フム、外見がケセランパサランだから判断がつかないらしい。
「私はカッツェだ。今、ケセランパサランの身体を借りて外から話をしている」
それを聞いてミレイは驚いた表情をしたが、急に手で自分の顔を隠した。
「何をしている?」
「今、あたし、本来の姿になっていて、あの、その、だから……」
成程。交渉スキルがないと上手く話せないのか。
そう言えば、『友人になって欲しい』と言われた時も、顔を真っ赤にして妙に緊張していたな。
「それは、今更だろう?真実の姿を見た程度で『友人』を恐れるわけがないだろう?」
出来る限り優しい口調で語り掛けるようにそう言った。
すると、ミレイは顔を隠したまま念を押すように聞いてきた。
「本当?本当に怖がらない?えと、あの、その……き、嫌いにならない?」
「ならない」
間髪入れずにそう答えると、ミレイは漸く恐る恐るではあるが、手を退けてくれた。
人をなぶり殺しにした後にバラバラに引き裂いてやろう。だが、その前にどうやっていたぶろうか悩んでいる視線とぶつかる。
だが、私は知っている。
彼女は、私が友人を辞めると言い出すのではないかと怯えているだけなのだと。
そして、彼女の心は果てしなく優しくて澄んでいる事を。
そんな彼女に恐れを抱くわけもない。
だから私は笑って見せた。
「父上がその姿を見たら、悲しむだろうな。可愛くて幼いミレイじゃないと」
冗談めかしてそう言うと、ミレイは安心したように笑い返してくれた。
「ジェイドさんならそうなりそう」
「だろう?」
小さいものに異常に執着するダメ父を思い浮かべながら笑い合うと、私は本題に入った。
「ミレイ。お前の今の状態は理解しているか?」
私は、ミレイの瞳を見据えながらそう訪ねると、ミレイは神妙に頷いた。
「このまま死ぬか、巧くいっても火傷の痕は残るかもしれない」
「その通りだ。だからお前が助かるには気を循環させて、身体共にコンディションを上げる必要がある」
気を循環させると聞いて、ミレイはエーデルさんの存在を思い出したらしく恐る恐る聞いてきた。
「さっきね、兄さんの姿をした人が同じ事言っていたんだ」
「ああ、知っている。彼女はリン・ユウキの奥方だ」
「奥方?と、いう事は大和国に今いるの?あ、そう言えばケセランパサランが大和国に入ったって言っていた気がする」
成程。意識がなかったから無理もないが、そこから説明しないとならないのか。
私は、一先ず状況説明からする事にした。




