第67話:美麗との対話
美麗の身体から抜け出したエーデルは二つの障害にぶち当たる事になった。
そう、それはユウキとカッツェだ。二人は状況を聞こうとエーデルに声を掛けた為、彼女の行く手を阻む壁となったのだ。
彼女はその壁を蹴散らす勢いで払い除けた。
「邪魔でありんす!退いてくんなまし!」
キッと二人を睨み付けてそのまま部屋から出て行こうとしたが、思い出したようにユウキに頼み事をした。
「リン様、わちきが戻って来るまでにエリクサーを用意しておいてくんなまし。わちきの魔力を全快にしておく必要がありんす」
そう言い捨てると、今度こそ本当に部屋から飛び出して行った。
そして、その足で書斎に入るなり鬼の文献を漁り始めた。
ここより遠い東の国に鬼達が生活している島国がある。
ユウキはその国が自分の故郷に似ているという理由で、ありとあらゆる文献を集めていた。
新婚時代にユウキが話してくれたものの中に不思議な治療法があった。
それは、『鍼灸』という治療法で、経穴というところに髪のように細い鍼というものか若しくは薬草を燃やして使う灸というもので刺激を与えると、身体の不調が治るというものだ。
エーデルは気功術は使えないが、魔力路がどのように通っているのかは理解していた。だから、直ぐにでもそれを正常に循環させる事は出来る。
だが、毛玉はそれでも7割としか言わなかった。
より確率を上げるには、気を整えないとならないと言っていた。
ならば、経穴というもの(イメージでは体力路)を正常にすれば気が整うに違いないと思い、『鍼灸』の文献を探し続けた。
「確かこなたに経絡図といわすものがあったハズでありんす」
それらしき文献を広げてみては違うと投げ出し、また探しだす。
そんな行為を何度か繰り返していくうちに、ようやく一冊の文献を見つけ出した。
「ありんした!これよ。これでありんす!」
目的のページを開いて、それを頭に叩き込んだ。
だが、念の為にその文献を手にして、ユウキの私室へ再び走った。
「エリクサーはありんすか!?」
部屋に入るなりそう叫ぶように言うと、ユウキの手にあった小瓶を奪うように取りそれを一気に飲み干した。
「エーデル。美麗はどうなった」
ユウキの問いに、エーデルは冷たく言い放った。
「見て判りんせんか?まだ、治療には入っていんせん。ところで、他にエリクサーはないのでありんすか?」
「あ、あぁ、今、切らしていて、代わりにマジック・ポーションをありったけ持ってきたのだが……」
「何故、こな時に切らしていんすのでありんすか!?まぁ、いい。取り合えずマジック・ポーションを持って行く事にしんしょう。でありんすが、大至急エリクサーを作っておくよう伝えてくんなまし」
エーデルはそう言いたい事だけ言うと、魔法袋にマジックポーションを急いで放り込み、再び美麗の中へと消えていった。
「リン。お前の奥さん、お前に対する態度が最初と違う気がするのだが?」
「……恐らく美麗の過去を覗いたんだろ?で、俺に対して憤りを感じる何かがあったのだろうよ」
思い込んだら一直線というエーデルの性格をよく理解しているユウキは、この後エーデルにどう弁解しようかと頭を悩ませながらも美麗を治す手応えは見つけたのだろうと安心させるようにカッツェに告げた。
☆
「お待たせしんした。早速始めんしょう」
再び戻ってきたエーデルは、璃人の姿になって毛玉が張った障壁から出た。
すると、先程味わった嵐のような魔力の風がエーデルに襲いかかった。
(相変わらず尋常じゃありんせん。気を抜いたらわちきが持たないでありんすぇ)
「ミレイ。ミレイ。大丈夫か?」
エーデルは、妹を本当に心配する兄を装って、近付いていった。
「兄、さん?」
「そうだよ」
苦しげな声でエーデルを見た美麗は自嘲するような笑みを浮かべた。
「あ、ははは、遂に頭おかしくなったかな?マトモな兄さんの幻って……」
「まともって……俺、まともに見えるかい?」
エーデルは似せきれてないところがあったのかと内心焦ったが、美麗は普通に返事を返してきた。
「うん。オカシイ。いつも、なら、枕詞に『マイ・エンジェル』とか、『天シスター』とか、付ける、じゃない。抱き締めようと、もしない、し」
(どんなお兄さん何だぇ!?その変態は!!)
エーデルは目眩を覚えながら平静を装った。
「今は一大事だからな。真面目にもなるだろう。お前は自覚していないかもしれないが、かなり酷い傷だぞ」
「自覚は、してるよ。だから、手を緩めず、に、治療してる」
「だが、要領が悪い。お前は昔からそんなところがある。だが、そこは俺が補おう」
すると、美麗は怪しそうに目を細めた。
「兄さんに、それが出来るの?」
「当然だ。俺を誰だと思っている?それに、可愛い妹の為ならどんな事だって出来る」
「……そんな風に、言い切るって、兄さんらしいね」
美麗はそう言って笑うと、じゃあと続けた。
「お願いしても、いいかな?こうして兄さんに会えたのは、嬉しいけど、やっぱ実物に、会いたいな」
「ああ、絶対俺が美麗を死なせたりしないからな」
(とは言ってみんしたが、これは結構キツい……)
一歩、また一歩近付く度に嵐のような魔力の風が襲いかかってくる。
気を抜く余裕は全く存在しない。
エーデルは足に力を入れて前に進み続け、そしてやっとの事で美麗の身体に触れると、早速魔力路を確認した。
そして、その異常さに目を見張った。
(尋常ではありんせん!こな状態でよく魔法が使えるものでありんす)
例えて言うならば身体のパーツ一つ一つが一人歩きしているようなものだ。
脳が指令を与えても身体の隅々までその命令が伝わりきらず、パーツが勝手に判断して動いていると言ってもいいのかもしれない。
そんな状態で魔法を使う場合、通常の何倍もの魔力が必要となる。
それでも目下数種類の魔法を同時発動させ続けられる美麗の高い魔力に閉口しながらも、エーデルは魔力路に魔力がスムーズに流れるように治療を始めた。
案の定、魔力がごっそり奪われていく。
エーデルはマジック・ポーションを取り出して、それを次から次に飲み続けながら魔力路を正常にしていった。
「へぇ、凄いもんだね。君は気功師なのかい?」
(気功術が使えれば、もう僅か楽に魔力路の修復が出来るでありんしょうに)
物見遊山でもしていそうな口調にイラつきを感じながらも、毛玉を無視してエーデルは治療を続けた。
(こなところでありんしょう。でありんすが、わちきの魔力の残量では体力路まで治す事が出来んせん)
体力路は生命力の流れを完全に理解し、操る事が出来なければ正常にする事は出来ない。
だが、気功術が使えないエーデルは気の流れを誘導するのが精々だ。
どうアプローチしたものかと、エーデルは瞬時に考察し始めた。




