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第65話:美麗がボッチだった理由

 


 ユウキ達がそんな会話をしているとは知らないエーデルは美麗の夢の中を不気味なほどにやけながら彷徨っていた。


「早く突破口を見つけて治療をしなくてはなりんせん。そうしたら、きっとリン様は沢山褒めてくれるはず」


 全開の笑顔で褒められる想像をする度に心が浮き立つ。

 そして、我に返って突破口を探そうと彷徨っては、再び想像の世界に入る。

 先程からそれをずっと繰り返していた。


 何故、そんなに気楽そうにしていたのか?

 それは、エーデルはこの時点では軽く考えていたからだ。

 異性に興味のない者は存在するわけがない。美麗のような可愛い子なら周囲は放っておくワケがない。

 見た感じでは、まだまだ成人には当分なりそうもない幼子だけれども甘酸っぱいくて幼い恋ぐらいなら経験している筈だと信じて疑ってはいなかった。

 だが、彷徨う時間がある程度経過したところでエーデルは首を傾げる事になった。


「オカシイ。恋の気配が全く感じんせん。もしや初恋さえしていないとでも言うのでありんしょうか?」


 美しく整った眉を歪ませてどうしたものかと思案し、アプローチ方法を変える事にした。


「仕方ない。過去を覗いてみんしょう。そうすれば、恋の気配を感じる事が出来るかもしれんせん」


 本来なら、無闇矢鱈むやみやたらに過去を覗く事はない。何故なら必要以上に感情移入してしまうからだ。

 対象がどんなに残虐な殺戮者だとしても、その人の過去に同情してしまったら牙を向けられた時に抵抗出来なくなる恐れがある。

 だから、幼い頃から余程の事がない限り過去を覗かないよう厳しく育てられてきた。

 だが、相手は子供であり夫が妹のように可愛がっていた存在だ。ならばそのような事態になる事はない筈。

 エーデルはそう結論付けて美麗の過去へとダイブした。



 ☆


 赤ん坊の周りを三人の男の子が囲んでいた。

 同じ顔をした二人の男の子はうっとりと赤ん坊の美麗を眺めている。

 そして、もう一人の男の子が自慢げに胸を張っていた。


「どうだ?うちの妹は可愛いだろ!凛と涼は俺のダチだから会わせてあげたんだぜ。感謝しろよ」


「感謝しろ」とは随分高飛車な言い方だが、これはいつもの事らしく二人は全く気にしていない。耳にさえ入っていないのか二人の目は熟睡している赤ん坊に釘付けだ。


「いやぁ、マジで可愛いな。なぁ、璃人。だっこしてみてもいいか?」


「まだ首がグラグラだから気を付けろよ」


 自分の妹に夢中な二人に気を良くしたのか上機嫌でそう返す璃人に凛は嬉しそうに頷いて美麗を抱き上げた。


「うわぁ。ふにゃふにゃだ」


 蕩けそうな笑顔を浮かべながら凛は美麗の顔を間近で見ようと顔を近付けた。

 だが、その瞬間表情を凍り付かせて美麗を落としそうになった。

 咄嗟に璃人が動き、美麗を受け止めてホッと吐息を漏らすと、凛に怒鳴り散らした。


「何やってんだよ!危ないだろ⁉」


「だ、だって、だってコイツ、俺を睨み付けた。テレビの侍みたいに!コエェ!マジ怖いって!!」


 すると、その声に驚いたのか美麗はけたたましく泣き始めた。

 璃人は会話を中断させて美麗を腕に抱いたまま泣き止ませようとするが、彼女は一向に泣き止む気配がない。

 どうしたものかと悩みながらも一生懸命あやし続けていると、涼が美麗を璃人から奪って美麗から二人が見えないようにしながら抱き上げる腕と同じくらい優しい声で美麗に話し掛けた。


「ビックリしたよね。だけど、もう大丈夫だよ。僕が美麗ちゃんを守ってあげるからねぇ」


 美麗は泣きながらも涼の目を見た。

 その瞬間、エーデルも彼女の顔をマトモに見てしまい、絶句した。

 目を閉じていれば天上の神でさえ愛でずにはいられない愛くるしい顔をしているのに、目を開くだけでその顔は周囲を黙らせる程の殺気を籠らせた悪鬼に見える。

 だが、涼はその瞳に動じる事なくあやし続けた。 

 すると、彼女は安心したように泣き止み、再び眠り始めた。


「二人とも幼い子を泣かせちゃダメだろ?僕たちはお兄ちゃんなんだから」


 美麗を起こさないように声は抑えていたが、その瞳はキツく二人を睨み付けている。


「ごめん。ビックリしてつい」


 悪い事をしたという自覚があるのか、凛は直ぐにそう謝った。

 だが、璃人は納得出来ないといった表情で不貞腐れた。


「俺が悪いのか?何もしてないのに……」


(なんとまぁ、可愛らしい会話だこと。にしてもリン様は子供衆の頃から快活で整ったお顔をお持ちでありんしたのね。

しかし、ミレイちゃんのあの瞳はかなり厄介でありんすぇ。魔族の中でもそうはいない眼力をお持ちとは……)


 予想外の真実に表情を曇らせながらも糸口らしいものはないと判断したエーデルは次の記憶へと跳んだ。


(今度は5才くらいかしら?こなたの頃に初恋なんて事もあり得る話ですし、覗いてみんしょう)


 小さな学校というところだろうか。美麗と同じくらいの小さな子供達が泣きながら前掛けを着けた教師に訴えていた。


「美麗ちゃん。なんでお友達をぶったりしたの?先生ぶったらダメよと前に言ったよね」


 口調は優しいが、怒っているようだ。

 怒られている美麗は俯きながら事情を説明しようとするが、上手く出来ないようで、「だって、だって」と繰り返している。

 その様子に痺れを切らせた先生は強行手段に出た。


「だってじゃないでしょ?ごめんなさいしなさい」


 そう言われて美麗は首を横に振った。


「悪くない。美麗悪くないもん!」


「美麗ちゃん!」


 先生が本格的に怒りだそうとした時に、一人の男の子が先生の腕を引っ張った。


「せんせー!ミレイちゃんのせいじゃないよ!ボク見てたもん。そっちがミレイちゃんをわるいやつだっていじめてたんだもん」


(これは、いい出逢いといわすものになりそうでありんすね)


 興味を引く展開に、エーデルは立ち止まり次の展開を見守った。

 だが、期待通りにはならなかった。

 それは、兄である璃人の存在だった。

 美麗の目付きの悪さに驚いたエーデルではあったけれど、それでも美麗を気に入ってくれる子はいた。それなのに全て璃人が追い払っていたのだ。

 美麗にとっては覚えていない事なのかもしれないが、記憶と言うものはその時の状況の全てが映像として映し出されるようなものだ。

 だから、傍観者であるエーデルには周囲の状況が解った。

 美麗がボッチになった理由は璃人によるものだったのだ。


(ダメでありんす。これでは恋に目覚めるわけがありんせん。妹大好きな兄がその隙さえ与えようとしてないのでありんすから)


 そして、最悪な事にユウキの存在が美麗をコミュ障の道に追い込んでいた。

 何かと言うと美麗をからかうだけではなく、言葉が拙い美麗に対して男らしい言葉で一気に畳み掛け、最後には必ず泣かせていたのだ。

 涼がその度に助けようとするが、美麗は同じ顔の涼でさえ怖がるようになり、半分引きこもりの状態となっていた。


(リン様にはリン様なりの考えがあったとは思いんすが、これではミレイちゃんが可哀想過ぎんす。それにこなたのお兄様も異常としか言えんせん。男の影を皆、芽が出る前に叩く手腕には驚きでありんすが、お陰でミレイちゃんは嫌われ者だと思うようになっていんす 。

 さて、どうしたらいいのでありんしょう?

 異性にトキメク環境にないのでありんしたら家族の愛情で攻めるしかないのかもしれんせん。幸い、妹にはとことん甘いお兄様の愛情は悪酔いするほど貰っていんすようでありんすしね)


 呪いの言葉を璃人とユウキにぶつけたくなったエーデルだったが、長い溜息を溢す事で自分を落ち着かせて、美麗にアプローチする為に過去の記憶の世界から飛び出した。



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