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第52話:歪む記憶

 


 うーん、嘘なのに心当たりがありまくりな内容だ。

 肉親を捜すというのは嘘じゃないし、ジェイドさんに猫可愛がりされていたもんね。

 受け入れてもらえなくて牢屋に入れられた事もあるしなぁ。


「ふーん。そうなんだ。でも、その格好はやっぱりいきすぎだよ。それが本当だとしても過保護にも限度があると思うけど」


 ナーデルさんの言葉にカッツェさんは溜息を吐くと、あたしからゴーグルを剥ぎ取った。

 油断していたあたしは、彼らに思いきり素顔を晒してしまった。

 周囲から息を飲む音が聞こえてきた。

 その瞳に映るのは怯えだ。


「……なんとまぁ」


 ナーデルさんがそう呟くと、フリューゲルさんも喘ぐように口を開いた。


「魔族の中にも滅多にいない眼力だね……」


「獣人族の中にだって滅多にいねぇよ。何ていうかさ、確実に飛び散る血を浴びるのが三度の飯より好きって顔だよな」


 イレイザさんはタクトさんに手綱を渡してあたしの素顔を馭者からじっと見てそう溢す。


 いや、もういいよ。そのネタは……

 なのに、カッツェさんは止めてくれない。


「この顔で歩き回ったら因縁を付けられるのがオチだ。だからこそ乗りきれる力を与えるために徹底的に鍛えた。

 これで、判っただろう」


 あたしが幼いのに上級魔法や武術が出来る理由と豪華な装備を身に付けている理由。それは、みんなに説明しているように見せかけてあたしにそういう人生設定にしろと伝えるものだった。

 だから、あたしは早速『意識調整』のスキルを使った。

 神子である事、異世界人である事、兄さんを捜している事は深層に送り込み、その情報は『大和国』に到着したら表層の一段階下に現れるようにセットした。

 更に、本来のステータスは中層の最奥に仕舞い込み、敵の出現と共に中層上部に自動で送られ、その後はその層を意識すれば直ぐにでも取り出せるようにした。

 そして、表層にはカッツェさんが述べた設定を本当の記憶としておいた瞬間、自分が違う誰かになっていく妙な感覚に襲われた。判定石を騙す時には起きなかった不思議な感覚。違う人間があたしの身体を乗っ取ろうとして本当のあたしが侵食されていくような嫌な感じだ。


 記憶が歪められていく。

 ジェイドさんはあたしを手放しで可愛がってくれる優しい養父となり、友だったカッツェさんは父さんの行きすぎた甘やかし加減を危惧して厳しい修行を施してくれた兄さんになった。

 そして、優しいけれど厳しい現実と修行を施した長老のトールさんに円月輪操作を習い、龍神国でのあたしは赤龍の集落の街興し事業の一員として幼いながらもトールさんの家にある本で学んだ知識を応用して活躍している。

 今回大陸に渡ったのは、技術者を求めて『大和国』へ行こうとしている目的が一つ、そして自分を捨てた肉親捜す為だ。

 それが、本当のあたし。


 そう自覚した瞬間、あたしは酷い目眩がして馬車の背凭れに身を任せた。


「おい、ミレイちゃん。大丈夫かい?」


 イレイザさんの声が聞こえる。


「カッツェさん。君達は馬車の旅は初めてかい?」


「ああ、実はそうなんだ。どうやら馴れない乗り物で酔ったようだ」


 フリューゲルさんに相槌を打ったカッツェ兄さんはあたしの身体を自分に凭れさせて支えてくれた。


「では、今日はその辺りで野宿をしよう。幸いこの辺は魔物が少ない」


 タクトさんの言葉に全員賛成し、その場で野宿をする事になった。


 敵を見つけやすい大きな木の元をすぐに見つけてそこに焚き火と薪の準備、簡易テント張りを馴れた手付きで準備したシュヴァイゲン一行は、あたしとカッツェ兄さんを火の側へと座らせてくれた。


「ヤモリの丸焼きだけど喰えるかい?」


 目の前にこんがりと焼かれたヤモリの串刺しがあった。

 あたしは、それを受け取り口にした。

 口の中に焦げ臭さが広がったけれど、貴重なタンパク質を食べない訳にはいかない。苦いし固いけど、あたしはそれを何回も噛み砕いて飲み込んだ。

 そうしている内に段々気分が楽になってきて、あたしは身体を起こして食事を再開した。

 それを見ていたナーデルさんが漸く納得したような表情になった。


「へぇ、ヤモリなんて下手物平気で口にするなんて、確かに温室育ちのお嬢さんってワケじゃなさそうだね」


「……今、街興しをしている赤龍の村では、ヤモリはご馳走の内です。だけど、出来ればふんを出してから食べた方が美味しいですよ」


 あたしがそう言うと、イレイザさんが興味深そうにあたしに迫ってきた。


「マジで上手くなるのか?こいつが!?どうやったらクソを出す事が出来るんだよ」


「え?えと……餌を与えずに一日中放置すれば出せますよ。で、その後アイスの魔法で冬眠させてから油で揚げると魚みたいで美味しいです」


「魚だと!?」


 あまり喋らないと思っていたタクトさんが、『魚』と聞いて身を乗り出してきた。

 なんでもリザードマンの主食は魚なのだとか。だけど、冒険中はそれを食べる事が出来ない。そんなわけで、魚の味を楽しめるらしいと聞いて彼の琴線に触れたらしい。

 彼はあたしにまだ生きた状態のヤモリを出してきた。


「ぜ、是非やってみてくれないか!?」


 え?一日掛かると言ったのに……

 だけど、タクトさんの期待一杯のキラキラした視線から目を逸らせない。

 ……旨味は落ちるし、多少固くなっちゃうけど仕方ない。捌くとしますか。


 あたしは、近くの岩を岩でぶつけた割った。そして、小さく「ウィンドカッター」と呟いて風で、岩の破片の刃を作り上げた。

 それを見ていたフリューゲルさんが驚いた表情であたしに言った。


「君、もしかして詠唱省略が使えるのかい?」


「え?はい。実は詠唱が苦手で……」


「いやいやいや、普通は大量の魔力を使うし、詠唱省略の方が難しいんだよ?」


「そうなんですか?どんな魔法を使うか頭の中で形にして魔法名を唱えた方が早いし解りやすいし楽ですよ?」


 それを聞いたフリューゲルさんは今度こそ本当に驚いてあたしを褒め称えた。


「凄い!ミレイさんは将来大魔術師になれるよ!」


 大魔術師なんて流石に無理だよ。

 フリューゲルさんって冷静に見えて実は大袈裟な人なんだなぁと思いながら、あたしは出来上がった刃でヤモリの腹を裂いて内蔵を抜き取った。

 次に、市場で買った油を鉄のコップに満たして火の上に置く。油が熱くなるまでの間に『アイス』を唱えてヤモリを凍らせてその身に小麦粉をまぶした。

 そして、油が熱くなったところでヤモリを投入。

 すると、冬眠から目覚めたヤモリが油の中で暴れだして油が飛び散った。

 それは一瞬の出来事だったんだけど、近くにいたイレイザさんの耳に跳ねたらしくてイレイザさんから悲鳴が上がったけれど、すぐにヤモリから漂う香ばしい香りに涎を垂れ流し始めた。


「さぁ、どうぞ」


 出来上がった天ぷらを最初にタクトさんの皿に乗せて、再び揚げては他のメンバーの皿の上に乗せた。

 味付けは龍神国を発つ前に海水を乾燥させて作った塩をまぶしただけだ。


「いただきます」


 まず最初にタクトさんがヤモリを口にした。すると、身体を震わせて染み入るような声で「美味い!」と言って目を閉じてその味を堪能していた。

 リザードマンは表情がイマイチ判りにくいけど、どうやら気に入ってくれたようだ。

 そして、その様子を見ていた他のメンバーもがっつくように食べ始め、全員が恍惚とした表情になって夢中でヤモリにしゃぶりつく。

 なんだか子供のようだなと感じながらあたしも食事を再開した。






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