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第50話:覚悟を決めろ

 


「先ず、ギルド長の判断の間違いと隠している事を説明しようと思う」


 カッツェさんは、そう切り出すと真面目な表情であたしを見た。

 あたしは、その雰囲気に生唾を飲みながら大人しくカッツェさんの言葉を待った。


「人間を傷つける事が出来るなら上級の神聖魔法。だが、今までもその賊に襲われた後も街道は通れたという事は、道自体は壊されなかったという事になる。

 そうなると考えられるのは『ディバイン・パニッシュ』という神聖魔法だ。これは生物のみを攻撃する魔法で、大地や建物には影響がない。

 それを扱えるとなると、相手は司祭クラスではなく司教以上となる。これが、ギルド長の判断間違いだ。

 そして、隠している事だが、ギルド長が『聖魔法』ではなく『神聖魔法』と言った事だ。この二つは習得する魔法名もその原理も全く同じだ。だが、違う点は宗教の違いだ。女神教では神の助けを借りる魔法を『聖魔法』と呼び、十字教では『神聖魔法』と呼ぶ。つまり、賊は聖十字教か白銀十字教のいずれかとなる。ギルド長はそれを私達に隠した。だから、この依頼を受けたくないと思ったのだ」


 なるほど、確かに情報を隠そうとしている者を信用するワケにはいかない。

 情報がなければこちらが痛い目に遭う事もあるし、罠に嵌まる恐れもある。


「ねぇ、十字教と一括りにしているけど、カッツェさんはシルバークロスの教徒だと思っているんだよね?」


「その通りだ。見境なく人を襲っている人間という事は、その賊は同じ人間でも受け入れるべき存在ではないと判断しているのだと考える。

『ディバイン・パニッシュ』という魔法は術者が悪と見なした者の命を奪う魔法だ。よって、自分達が崇める神以外を崇める者を敵と見なしている白銀十字の教徒しかいないだろう」


 淡々とそう述べるカッツェさんの言葉を聞きながら怒りを感じた。

 だってそうでしょ?同じ人間なのにその人間の命を平気で奪う魔法を使うなんて許せるわけがない。しかも、相手は戦士ではなく一般人だ。

 そんな暴挙に怒りを感じない人間がいるわけがない。


「ミレイ。落ち着け」


「落ち着けるわけないじゃない!だって、簡単に人の命を奪う奴が相手なんだよ!絶対捕まえなきゃ!」


「それだ。それだから私は反対したんだ」


 あたしの言葉にカッツェさんは眉を寄せてそう言った。そして、辛そうに顔を歪ませて続けて言った。


「お前は優し過ぎる。それは美徳ではあるが、欠点でもある」


「美徳でもあり欠点でもある?」


「そうだ。相手は間違いなく私達を殺そうとするだろう。それなのにお前は『捕まえる』と言う。やるからには『殺す』という気持ちがなくては私達は死ぬ事になるだろう」


 殺す?あたしが、人を殺す?

 その言葉の重みにあたしは怒りが吹き飛んだ。


「ミレイ、お前は確かに膨大な魔力を持っている。そして、上級魔法だって扱える。だが、お前には魔法耐性が少な過ぎる。『毒耐性』『腐食耐性』『拷問耐性』この3つしか持ち合わせていない。つまり、攻撃を攻撃か交わすか『アースウォール』で防御するしかない。

 それではとてもではないが太刀打ち出来ない。

 お前は、殺せるか?『人間を殺せる』か?」


 殺すって……人間を?あたしが、殺す?

 あたしはトールさんがアイスさんを殺した時の事を思い出していた。

 無表情でしかも冷酷な殺気を宿らせた瞳で槍を突き刺したトールさん。

 あれをあたしがやるの?

 敵とはいえ、人間の命をあたしが奪う。

 その様子を想像した瞬間、あたしは吐き気に襲われて込み上げてくる苦い物を飲み込んだ。


「無理だろう?だが、請けた以上はその事を念頭に置き、いざとなったら相手を殺してでも生き残る覚悟をしろ。で、作戦だが私達が乗っている馬車が襲われたら私は馬車を飛び出して敵を迎え撃つ。

 ミレイは馬車に残り、賊の格好をしていない者を神鳴で攻撃する。

 賊の格好をしていない者が司教だからだ。司教を倒しさえすれば後はなんとかなる」


「だけど、その司教が賊の格好をしていないとは限らないじゃない」


 あたしの問いに、カッツェさんは自信たっぷりに答えた。


「司教が賊の姿になる事は絶対にあり得ない。理由は判らないが、いや、もしかしたら彼等のプライドなのか、それとも彼等の教えなのか、司教は決して司教の服を脱がない。

 だから、司教服の人間を捜せばいい」


「司教の服装は?」


「聖十字の司教なら白地に赤い十字架。白銀十字の司教ならば黒地に銀糸を織り込んだ白い十字架が縫われた服を纏っている。

 それから、これが一番大事な事だが、神子であるという事は絶対に知られないよう意識の奥深くまで閉じ込めたままにする事。だが、魔法の使用は制限しない事。上級魔法を遠慮なく使わなくては恐らく勝てない」


 上級魔法を使うって、だって、相手は人間なんだよ?

 そんな事したら本当に死んじゃうよ。

 あたしのそんな気持ちに気付いたのか、カッツェさんは真剣さを増した口調で繰り返した。


「殺すつもりでやるんだ。いいな」


「わ、解った……」


 まだ、人を殺すという事を受け入れてはいなかったけど、あたしはそう答えた。

 そこまでしなくてもなんとかなるんじゃないか?

 そんな考えを捨てずにいたあたしは、実際に賊と交戦して己の甘さに心の底から後悔する事になった。




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