第4話:龍神様と御対面【1】
皆さんこんにちは。佐藤美麗改め、ミレイ・サトーです。
今、青龍という龍神様の巣、もとい、お屋敷にいます。
何故こんなことになってしまったのでしょうか?
話は5時間程前に遡る。
あたしは両手を後ろ手に縛られた状態で長の屋敷へと連れてこられた。
長というには若い外見だ。
腰から下は青鱗の鎧を身に纏い、よく鍛え上げられた逞しい上半身は日に焼けて精悍さを際立たせている。
龍人の特徴とも言える耳は青い魚のようなヒレが付いているけれど、違和感はないし、他の龍人達より二回りほどの大きさで威厳を感じる程だ。
恐らく強さの象徴なのだろう。
「そなたに聞きたい事がある」
その声にも威厳があるけど、何処か暖かさを感じた。
長に成るべくして成った者というのが充分に伝わる。
「この地にどのような手段を用いて来たのか?」
周囲を断崖絶壁の岩山に囲まれた島に突然現れた人間の子供。
怪しい以外の何者でもない。
だからと言って、本当の事を言っても信じて貰えないだろう。
「気を失っていた為、手段は分かりません。気が付いたら岩山に1人取り残されていた状態です」
結果、濁らせた答え方をしたのだけど、予想通り周囲から怒声が沸いた。
「島に入ってから置き去りにするワケがない」
「魔法が使えるということは1人でやって来たに違いない」
「目的は龍人族を滅ぼす為だろう」
などと思い思いの言葉を浴びせられる。
誤解だと言っても信じて貰える雰囲気は全くない。
「皆の者鎮まれ」
長が静かでありながらよく通る声でそう言うと、周囲はまだ何か言いたそうにしてはいたけど、言われた通りに口を閉ざした。
「娘よ。我が眼を見よ」
そう言われ、あたしは長の瞳をじっと見つめた。
瞳孔が縦に長くアイスブルーの宝石のような綺麗な瞳だ。
「ふむ」
長はまるであたしの心の奥底を見るかのようにあたしの目を見つめ続けた。
ちょっと恥ずかしいけど、嬉しくもある。
今までの人生で、あたしと目を合わせてくれたのは家族だけだった。
目を合わせば逃げられていた日々はある意味トラウマだったと言ってもいい。
気が付くと熱いものが溢れていた。
他の龍人からは敵意を感じたのに長の瞳からは敵意を全く感じなかった。
それが、本当に嬉しくて遂に目尻から流れ落ちた。
頬を伝うそれを見て、長はあたしに近付くと指先でそれを拭った。
その行為に周囲がざわざわと騒ぎだした。
「ふむ。なんとも面妖な……娘よ。何故泣く?」
「嬉しくて」
「嬉しくてだと?」
理解できないといった口調にあたしは頷いて言葉を紡いだ。
「あたしは目付きが悪くて家族以外はみんなあたしを怖れて目を合わせてはくれませんでした。この集落の門番の人にも『人を殺したことがある目付き』と言われ、人と目を合わせて話すなんて不可能だと諦めていたんです。
それなのにあたしの心の奥まで見ていそうな程見つめられるとは思ってもいなくて……」
それを聞いた長はあたしの頭に手を乗せながら門番に視線を向けた。
「事実か?」
「…はい。ですが、人間が立ち入ることの困難なこの地にいた事は事実!怪しいじゃないですか」
いたたまれない様子で認めながらも門番は自分の主張をはっきり述べた。
周囲もそれに賛同している。
「ふむ」
長はあたしから離れると椅子に腰を掛けて暫く考え始めた。
周囲は長の次の言葉を静かに待っている。
あたしも固唾を飲みながら長の言葉を待ち続けた。
「そなた達の言い分は理解した。だが、この者の瞳には邪気はない。澄んだ泉のように清らかだ。
よって怪しい者ではない事を我が保証しよう。
そうは言ってもそなた達とて納得は出来なかろう。
最終判断は龍神様に願うこととする」
その裁きにざわめきが多くなったけど、反対する者は現れなかったため、龍神様の元に送り判断を仰ぐ事となり、あたしの処分は一先ず見送りとなった。
即刻死刑にならなかったから良かったものの、龍神様の巣、お屋敷は龍神窟迄は長しか同行が許されないという。
正直不安だ。
顔を合わせた瞬間、『パクり』と食べられてしまうのではないだろうか?
そしてもう1つ気になる事がある。
「この辺りは空気が薄い。苦しくはないか?もし、辛いようなら抱えてやるぞ」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「歩きにくい山道だ。無理せず辛くなったら声を掛けるんだぞ」
「……ありがとうございます」
もう、解っただろうか?
そう、長の様子がガラリと変わったのだ。
集落にいる間は威厳というものがあったのに、龍神窟へ向かう山門を潜り、二人きりになってからは急に子供扱いして何かと気を使って来る。
しかも、口調まで完全に違う。
もしかして、こちらが地なのだろうか?
だけど、ここまで変わってしまうと逆に怖い。
あたしはその後もこのやり取りをしながら龍神窟へと歩みを進めた。




