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第3話:牢屋で魔法を覚えちゃった

 


 まあ、なんて素敵なホテルでしょう!

 無料なのに個室なんですよ。テレビがないのは残念だけど、水滴が水溜まりに落ちるBGMが付いててヒーリングに配慮されてるし、しかも安眠出来るように薄暗くなってるんです。

 更に更に蝋燭の灯りのサービスまである。

 蝋燭の優しい灯りが更なる癒しの空間に誘う訳です。


 あぁ、落ち着くわぁ………


 て、ワケあるかい!いくら現実逃避しようとしてもここは牢屋!牢屋なのよ‼


 戦国時代に出て来そうな土を掘っただけの地下牢だから地下水が漏れて水溜まりにはなってるし、光や空気を取り入れる窓擬きは木の格子だけで外気が思い切り入ってくるし、薄暗くてジメジメしてるもんだからムカデとか出てきて身体に這い上がって来るし、もしあたしじゃなかったら一日で気が狂うわよ!


 田舎で誰とも遊べず、暇潰しに洞窟を探険して蝙蝠やムカデとかミミズの大群に襲われた経験があって本当に良かった。

 その上、孤独に対する恐怖なんてものもないもんね。

 ボッチ人生役に立ちまくりだわ。


 だからといってこの環境に長時間いるのは堪えられない。


 外気が入ってくると言っても、室内全体が土がかびたような嫌な臭いがする。

 肺が黴に汚染されるのは時間の問題だ。

 一日に二回運ばれてくる食事は魚と固いパンのみ、野菜は存在しない。

 栄養が十分じゃないので抵抗力も弱まっているハズだから病気にもなりやすいだろう。

 もっとも、特殊体のこの身体では本当にそうなるか判らないけれど、以前の自分の身体なら間違いなくそうなる。

 集落の住人達はどうやらあたしの処分に困っているのか、かれこれ4日ほど食事と蝋燭の交換以外では姿を見せることはない。


「そうなると、自分で何とかしなきゃだよね……」


 食に関してはどうすることも出来ない。

 ならば空気をなんとかするしかない。


 そう思い立ち、空気の浄化方法について今まで読み漁った本の知識をフル稼働させて考えてみた。


 ダメだ。何もないこの空間じゃどうすることも出来ない。

 最初は酸素を作る方法とか考えたけど、材料があったとしても爆発してまた死ぬ羽目になるような事しか思い浮かばなかった。

 だから、せめてフィルターみたいなものが出来ないかと考えたけど、外から黴が入って来るワケではなく、今、この場が黴の温床なのだから意味はないと悟り、アイテムボックスにあったウイルス用のマスクを取り出して装着することにした。


 で、換気をすればどうだろうかと考え、扇風機のようにジージャンを振り回してみた。


 うん。皆まで言わないでくれ。おバカな発想だった。

 疲れただけだった。

 でもね、そのおかげで天の声が響いたんですよ。


『風魔法を習得出来ます』


 この機械音声は間違いなく天の声だ。

 何故なら風を起こそうと考えた途端この声が響いた。

 つまり、魔法の属性や技術について考えれば、それに準じた魔法かスキルが覚えられるという事に気付かせてくれたのだから。


 そうなったら今度はより多くの外気を牢屋内に満たす為に陰圧室をイメージした。

 外からの空気は入ってくるけど、中の空気は外に出ないようになっている。

 だけど、この汚れた空気を出さなきゃ意味はない。

 窓格子の一部と牢屋内のほんの一部を陽圧にして、更に風を起こす強さをこまめに切り替える事で、吸気と排気を繰り返せるように調整を続けた。


 スタミナとは違う力がグングン減っていくような感覚がする。

 ゲージを確認すると、MPが消費されていっている。

 身体の芯から吸い取られるような感覚は正直気持ちが悪い。

 いつか慣れるのだろうか?


『重力制御を習得出来ます』


 あらん、なんか素敵な響きの魔法のお知らせが。

 迷わず最大値までポイントを振り分けて重力魔法で圧の調整をし、風は湿気を飛ばす方法に切り替えた。

 するとMPの減りは緩やかになり、寝転がってるだけで回復スピードの方が上回るという結果になった。

 その後も快適空間を目指して手を加えているうちに牢屋がとんでもない事になってしまった。


 食事を運んできた男が目をひん剥いて飛び出していく程に……


 なんという事でしょう!

 暗くてジメジメしていた牢屋内は掘る事が出来そうな土壁が完全に乾き、風や重力の影響を受けて堅牢な壁に変わり、新たに大人一人がゆったり寝られるベッドまで土で作られました。

 更に匠は壁に生えていた木の根を繊維状に切り裂きフカフカのベッドを作ったのです。

 部屋の隅にはプライバシーを配慮したトイレを設置、反対側には湧水をろ過するための壷と、ろ過した水を溜める壷まで用意するという粋な計らい。

 これで、牢屋生活も安心して過ごせる事でしょう。


 テヘ、やりすぎちゃった。


 その甲斐(?)あってか、翌日にあたしは牢屋から出る事が出来ました。




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