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第42話:船上で訓練



 折角船に乗っているのだから甲板で海を眺めようと思ったあたしをカッツェさんが待ったをかけた。


「神子、数時間後にはノザリンの港に到着する。それまでにやっておかなくてはならない事がある」


 トールさんとの一件から何故か敬語を使わなくなったカッツェさんが、そう切り出してきた。


「やっておくこと?」


「そう。神子は『アナライズ』という魔法を知っているか?」


 分析とか解析する魔法だよね?

 それを発動させると、相手のステータスを見る事が出来る魔法。

 ゲームでよく見かけるけど、あたしはあまり使った事がない。

 便利そうな響きなのにあまり実用性がないと感じていたせいだけど。

 それがどうしたのだろう?


「ノザリンに到着したらギルドに登録するだろう?その際、神子の情報は極力知られるわけにはいかない。だが、ギルドに登録する時に判定石を使用してその者に相応しいランクが割り当てられる。

 神子の意識がある時にアナライズを使うと、妨害されて詳しく見る事が出来ないのだが、判定石はアナライズの魔法より強力で、どんな情報も隠す事が出来ないと言われている。

 神子というのは特殊だ。下手をすると利用される恐れがある。更にレベルもその若さではあり得ないほど高いし、特に魔力は尋常ではない。だから、そういった情報を見られないようにする必要がある」


「そんな事が出来るの?」


「出来る。と、いうよりは出来なくてはならない」


 そう言って紙を広げると、そこに逆三角形の絵を描いた。


「有意識と無意識を使い分ける。それで、アナライズは防げる」


 有意識と無意識?


「この図は人の意識を表している。頂点は有意識、つまり表情の変化などで簡単に気持ちが知られてしまう情報だ。表層意識と言えば納得出来ると思う。逆三角形の下に行けば行くほど意識の深層、つまり無意識のエリアになる。一番底の部分は自分自身でさえ知る事が出来ないエリアだ。

 まずは、この逆三角形を意識しながら意識を多層化させる。そして、知られてもいい情報は有意識エリアに、知られたくない情報は無意識エリアに振り分ける。特に神子である事、創生の神の加護を受けている事、異世界からのやって来た者だという情報は最下層に蓄えるようにする事。

 そうすれば、神子の本来の情報を知られる事はなくなる。

 よって、アナライズを使われた時に『妨害』ではなく、『一部を見せる』ようにして身分を偽れるようになる。

 そもそも『妨害』なんていかにも怪しいですと言っているようなものだからな。だから、早急に身に付けるべきだ」


 いやいや、それ、かなり無茶振りだから。

 そんな事が出来る人間なんていないでしょ?


「優れたスパイはそれが出来たと言われる。自白剤を使われても重要機密を話す事がないように徹底的に訓練していたらしい。よって、人間が出来た事を神子である貴女が出来ない筈はない」


 神子を過剰評価してませんか?カッツェさん。

 何でも出来るスーパーマンじゃないんですよぉ。

 あまりの無茶ぶりに軽く目眩を覚えた瞬間、あたしは妙な違和感を感じて首を傾げた。


 あれ?この違和感。なんか前にもあったような?

 あの時はフライを覚えるのに必死で気付かなかったけれど、よくよく考えたらこの違和感はその時にもあった。

 今回はそれより遥かに強く感じたから気付いたけど、何かがおかしい気がする。

 だけど、それがなんなのかまるで判らない。


「神子?」


「え?何?」


 ヤバイ。違和感を見付けようと考え過ぎて、カッツェさんの話を聞いていなかった。


「成程。人が真剣に話しているというのに他の事をお考え中でしたか。余程余裕がおありとみえる。ならば、遠慮をする必要は御座いませんね?」


 イヤーァァァァッッ!!敬語!敬語怖い!!

 笑いながら瞳が怒っていらっしゃる!!


 あたしはカッツェさんのスパルタ教育が、最大レベルのスパルタ教育として行われる予感という恐怖に怖れ戦き、身体を震わせる事しか出来なくなっていた。



 ☆


『意識調整が出来るようになります。習得しますか?YES/NO』


 久し振りに聞こえてきた天の声に、あたしはフラフラになりながら頷いてレベルを最大限に振り込んだ。

 その様子を満足げに見ているカッツェさんに心の中で悪態を吐きながらメニューからステータスを確認した。


『new意識調整Lv.10』『new拷問耐性Lv.2』


 ハハハ、拷問耐性なんてもんが発生しているよ。

 カッツェさん、あなたの教育は『拷問』だとスキルが訴えてますよ。

 あたしも認める。あれは拷問だった。

 妨害の解除までは問題なく終わったけれど、その後の意識の振り分けが出来なくて間違える度にいつの間に覚えたのか、雷魔法であたしに電気ショックを与え続けたのだ。

 これを拷問と言わずして何を拷問と言うだろう。

 あたしは、暗くなっていく視界の中でカッツェさんを睨み付けた。




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