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第43話:第二の商業都市ノザリン

 


 スパルタ強制スキル獲得訓練のせいで残りの時間も海を見る事なく、最初の目的地ノザリンの港に到着した。

 グリックさんの本拠地である王都のイーストンが最大の商業都市で、ノザリンは隣接しているという恩恵を受けて第二の商業都市として知られているらしい。

 人口は30万。住民の殆どが商人で、商人になる為の専門学校もあるらしい。

 あたしは初めての街らしい街に興奮状態だ。

 だって、舗装された石畳の道に煉瓦の建物が立ち並び、沢山の人々がそこを行き交う。

 馬車が音をたてて走り去るその様子はあたしの期待したRPGそのままの世界だ。


「これ!これよ!あたしはこんな中世風の街を期待していたのよ!」


「言っている意味が解らないが、一先ずグリック商会の店に行って宿を決めよう」


 あたしを放置したら糸の切れた風船のように何処かへ行ってしまいそうな雰囲気を懸念したのか、あたしの手を引いて歩き始めた。


「店が沢山あるけれど、どれがグリック商会の系列か判るの?」


「店の看板に花の絵が書かれているだろう?あれは家紋みたいなもので、グリック商会は百合の花だ。だから、百合の花が描かれている看板を探せばいい」


 カッツェさんはそう説明しながら、百合の花が描かれた看板のある店の前で立ち止まった。


「ここだ。店主には私が交渉するから木簡を貸して欲しい」


 そう言われ、素直にグリックさんから貰った木の札をカッツェさんに渡すと、あたしは店内を物色した。


 そこはとても大きな店だった。

 吹き抜けになった二階建てのその店は、入口から全体を見る事が出来る造りになっており、一階は雑貨用品、二階は洋品店とアクセサリー店になっている。

 そして吹き抜け中央のガラスケースの中には新商品としてあたしが取引した明礬水が売られていた。

 契約通り銀貨10枚で売られているそれは、


『気になる体の臭いを撃退!貴方もこれで臭わない!!長年の悩みもこれで解消』


 なんて煽り文句が書かれていて、あたしは思わず笑った。

 だって、怪しさ満載なんだもん。

 買われるまでは時間が掛かるかもしれないけど、一度でも使えばそこから口コミで人気の商品になるのは間違いないだろう。


 それにしても、中世ヨーロッパの世界なのに文字が日本語ってどういう事なんだろう?

 龍人族の時みたいに言葉の壁がないのは助かるけれど、なんか中世ヨーロッパのイメージが強い世界だけに慣れ親しんだ日本語が強烈な違和感を感じる。


「待たせたな。いくぞ」


 ん?どうしたんだろう。なんかカッツェさんの機嫌が悪い。

 あたしは歩幅を大きくさせて歩くカッツェさんを追いかけるようにして後ろを着いていった。



 ☆


 理由を聞こうと思ったけど、話しかけるなオーラを発しているカッツェさんに声をかける事が中々出来ずにいた。

 そうこうしている間に宿に到着して、そこで不機嫌な理由を悟る事が出来た。


「確かに、ユーリ様の木簡ですね。部屋はこちらになります」


 何故か顔を強張らせながら部屋を案内する店主さん。しかも、あたしの様子を恐る恐る見ている。

 その視線で、あたしは察する事が出来た。

 だって、元いた世界でよく向けられていたもん。恐らくあたしが木簡を奪ったに違いないと判断しているんだろう。

 で、その視線を感じてカッツェさんが憤っているワケだね、多分。


 部屋に到着するとそれは確信に変わった。

 あたしが部屋に入り、後からカッツェさんが続いて部屋の様子を見ようとしたその瞬間に、店主が体当たりでカッツェさんを押し込み部屋の入口に鍵を掛けたのだ。


「何をする!」


 扉を叩くカッツェさんの肩をあたしは叩いて、取り敢えず落ち着くように言った。


「なぜ落ち着いていられるんだ!閉じ込められたのだぞ!?」


「うん、判ってる。だけど、抵抗すると余計に悪化するから取り敢えず座ろ?」


 理由は十中八九あたしの顔だろう。

 この顔はこの世界でも凶悪顔だという事は、青龍の集落で充分味わっているから落ち着いているだけだ。


「まあ、窓には丁寧に鉄格子が填まっているけど、扉も頑丈そうだけど元々客室だったんだろうね、ここ。ベッドにクッション入っているし椅子もあるしトイレもあるし快適でしょ?

 青龍の集落の牢屋より、100倍マシだよ」


 痛いところを突かれたのか、カッツェさんはグッと唸りながら渋い表情で席に着いた。


「別に犯罪を犯したワケじゃないし、あの様子だとすぐにグリックさんに連絡が行くハズだから誤解もすぐ解けるよ」


「しかし、時間が惜しい」


「赤龍の民達頑張っているし、一ヶ月くらいは大丈夫だよ。大和国までは5日で到着するって話だし余裕あるって」


 本当は道中で兄さんの情報を集めようと思っていたんだけど仕方ない。

 あたしは、装備を外してベッドに横になった。


「神子?何故寝ようとしている?」


「え?やる事ないから寝て体力を温存しようかなと。ほら一緒に寝よ?」


「はぁ!?」


 カッツェさんが目を見開いてすっとんきょうな声を挙げる。


「だって、材料ないからベッドをもう1つ作る事なんて出来ないし、毛布も一枚しかないんだから一緒に寝るしかないでしょ?」


「だからって一緒に寝られるワケがないだろう!」


「二人で寝た方が暖まるし、いいと思うけど」


「だから、そういう問題じゃない」


 顔を真っ赤にして抵抗するカッツェさん。

 一体何がダメなんだろう?今までだって同じ部屋で寝泊まりしていたのに同じベッドではダメっておかしいよね?


「一応中身は私より年上なのだろう?ならば、抵抗する意味くらい察してくれ」


「え?子供の身体に欲情する人だったの?」


「欲情って、お前な……とにかく、一緒には寝っ」


 突然カッツェさんは言葉を区切り、こめかみに手を当てた。


「どうしたの?」


「トールさんの思念が飛んできた。事情を説明すれば早く解放されるかもしれない」


 そう言ってカッツェさんは安心したような吐息を漏らして、トールさんの思念に同調するべく瞳を閉じた。





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