第29話:会議の本当の目的【6】
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それからはあっけなかった。赤龍の集落開発計画は龍人族の総意として進行する事に決まり、工具が黄龍の民から提供され、フライが使える青龍の民は狩った魔物を青龍の集落に運び、それをフライが使えない青龍の民が黒龍の民の待機場所まで運ぶ。そして、待機していた黒龍の民が全ての集落に送り届ける役目に就いた。
緑龍の民は一先ず、グリックさんから育てやすい野菜の作り方と養殖の方法を教えて貰う方向であたしが交渉する事になった。
白龍の集落に関しては、次の長が決まり次第協力をしてもらう事として会議はお開きとなった。
そして、広間にはジェイドさんと、トールさん、そしてセレナさんが残っていた。
「あの、トール?もしかして、私が腕を斬り落とす度に貴方も痛みを……?」
恐る恐る聞いてくるセレナさんに、トールさんは苦笑した。
「まあね。だから君が弱っていく姿を見るのが辛かった。
……アイスが改心してくれればいいと思っていたけれど、君達の仲間を死なせた事は申し訳ないと思っている。でも、それでも信じたかったんだよね。
だけどさ、神子様に対する態度を見てそれは不可能だと悟った」
「だ、だけど、何も殺さなくても良かったと思います。あたしは、アイスさんを白龍の長を辞めてもらって、で、新しい長に協力してもらう方向にしたかったんですが」
若しくは一先ず白龍の集落抜きで進めて、赤龍の民の変わった姿を見届けてもらい、協力してもいいなと思えるようになったらお願いしようと思っていたのに、まさかこんな解決の仕方になるとは思っていなかった。
トールさんは、あたしのそんな気持ちを理解しているのかやるせない表情をした。
「それが出来れば良かったんですけどね。アイスは長の座を降りようとは絶対に思わないし、白龍の民達だって納得出来ない。事実を話しても白龍の民にとってアイスは人望の篤い長だったから誰も信じないと推測出来る。
だから、龍神の神子である私が処罰しなきゃならなかったんですよ。
どんな理由があっても龍神の神子は民を傷付けてはならない。
それでもその道を選ぶしかなかったと思わせれば、白龍の民達だって仕方がないと思わざるを得なくなるでしょうし」
「だけど、そのせいでトールさんは神子の資格を失ったワケじゃないですか」
「いや、失って良かったよ。
私は龍神と同じ寿命を授けられていましてね、長く生きるのは正直苦痛でしかなかった。
実は、私は最初の龍人族なんですよ。初期の龍人族は寿命が長かったのですが、龍神様と同列の寿命を授けられた私は彼らより遥かに生きる。
妻の死を看取り、更に子供も私を置いて天へ召される。
それだけでも身を切られるほどに辛いのに、龍人族が傷付く度に身体を襲う痛みに苦しめられる。
いや、身体に受けた痛みは耐えられるけれど、傷つく者の心の痛みが伝わってきてね、それが何より辛かった。
何故、こんな苦しみを彼等は追わなければならなかったのか?そんな事ばかり考えていると気が狂いそうだった。助けられる命があったかもしれないという自責の念で押し潰されそうでした。
もう、限界だったんですよ。私はね。
だから、この処罰は私にとっては褒美以外の何物でもないんです」
トールさんはそう遠い目で語ると、あたしに跪いた。
「神子様。私では民達を救えませんでした。ですが、神子様の計画は全身全霊で勤めさせて頂きます。
そして、神子様の兄上捜索は同時進行でこのトールが致しましょう。
神子でなくなったとはいえ、長い間生きてきたので色々と伝もありますゆえ」
「璃人兄さんを捜してくれるのですか!?」
青龍は何処かの国の教会で兄さんは召喚されているらしいと言っていたけれど、それが何処なのかは判っていない。
だけど、一人でも多くの人が兄さんを捜してくれれば、少しでも早く見つけ出す事が出来るかもしれない。
あたしは、トールさんの言葉に甘える事にした。
「ところで、神子様。1つだけ気になる事があるのですが」
話を切り替えてトールさんがそう聞いて来た。
「なんでしょう?」
「グリックという商人に神子様は、龍神様が外部から人が入れないように結界を張っているから人が立ち入る事は出来ないと仰せになってらっしゃいましたが、この国に結界というものは存在しておりません。
此度の騒動により、赤龍の集落のみを隔離していただけだというのに何故あのような事を仰せになられたのですか?」
誰も聞いて来ないからスルーされていたとばかり思っていたのだけど、そうじゃなかったらしい。
まぁ、聞かれたからには答えるとしよう。
「そう思わせた方が、この先争いの種を作らずに済むと判断したからです。
私の元いた世界の歴史は侵略の歴史といっても過言ではありませんでした。
未開の地に冒険者が入り、そして彼等の国の偉い人がその地を手に入れようと侵略する。そこにいた先住民は奴隷となる事も少なくなかったんです。
この世界はどうなのかは解りませんが、欲というものはいつ牙を剥くか誰にも判らない事だと思っています。
赤龍の土地は硫黄以外使えるものがありません。
その硫黄も毒ガスのせいで簡単には盗めません。
ですが、他の土地にはあたしがざっと見ただけでも様々な宝があります」
「宝ですか?」
宝に心当たりのないトールさんは首を傾げてジェイドさんを見た。
ジェイドさんも心当たりがないといった風に首を傾げていたけど、ある事を思い出して口を開いた。
「ミレイ。まさか、岩の事を言っているのか?」
龍神窟であたしが目を輝かせて岩壁を見ていた事を思い出したみたい。
だからあたしはその通りと頷いた。
「この国中にある岩は使いようによっては巨万の富をもたらす程に価値があります。
ですから、それを外の国の方達に知られるワケにはいきません。
そんなわけで、赤龍様の結界はそのままにしてもらって、龍人族だけが出入り可能にして貰います。
外の国の方々は、決められた船以外では赤龍の集落自体入れないようにしてもらうのが一番いいと思ったんです。
硫黄以外何もないから安全だと判断しました」
あたしの言葉にトールさんは目を見開いたまま何かを考えているようだったけれど、最後は参ったとばかりに笑いだした。
「いやはや、本当に神子様がこの地に来て下さって良かった」
そう言いながら。




