第28話:会議の本当の目的【5】
神子であるアイスさんが跪いた。
それが、あたしが自分より立場が上の存在なのだと周囲に解らせるためだという事は、ジェイドさん達の様子を見て理解出来た。
何故ならセレナさんとハイドさんがあり得ないと息を飲み、ジェイドさんが舌打ちをしながらも引き下がったからだ。
ジェイドさんにはトールさんの行動が、『君の出る幕ではない。これから起こる事を黙って見ておけ』と言われているように感じたのかもしれない。
それは、トールさんのこの後の行動に表れていた。
「私は龍神の神子として今、やるべき事をやります。
神子様。御目を汚します。どうか御許しください」
彼はそう告げると立ち上がり、ゆっくりとした動作で床に転がっているアイスさんの得物を手にした。
そして、切っ先をアイスさんにそのまま向けた。
その瞳は殺気で彩られている。
「お、おい、トール。ま、まさか私を殺す気、か?」
切っ先から逃れるようにアイスさんが怯えているというのに、トールさんは無反応のままその槍でアイスさんを突き刺した。
「ギャァッッ!!」
槍は、アイスさんの肩を貫き、トールさんの眉が一瞬顰められた。
「避けないでくれるかな?私だって痛いんだからさ」
トールさんの感知能力は龍人族が傷付けられた時に同じ痛みを味わうものだと言っていた。
つまり、先程アイスさんの腕を切り落とした時も痛みを感じていたハズだ。
それなのに、その時も今も悲鳴一つ彼は上げない。
「アイス。君は己の欲の為にこの状況を利用し、白龍の民だけではなく青龍の民さえその手に掛けた。
更に改心するどころか神子様に不遜な振舞いを働き、同列の私達を下に扱うその行為断じて赦される事はない。
よって、龍神の神子として私が処罰する」
そう告げて、今度こそトールさんはアイスさんの心臓を槍で突き刺した。
そして、槍を無造作に引き抜くと、心臓から血が噴き出してトールさんの身体を濡らしていく。
「君が手を掛けた者と同じ得物で逝ける事が情けと知れ」
そう言い放つと、トールさんはその場に崩れ落ちた。
セレナさんがトールさんの元に駆け寄ろうとすると、彼は来るなと手で制した。
「まだ、終わりじゃない」
そう呟くように言うと、彼は龍神に呼び掛けた。
「龍神達よ!御覧の通り私は白龍の長を手に掛けた。神子としてあるまじき行為だ。どんな罪でも背負う覚悟は出来ている。
ですが、龍人の神子として最後のお願いをさせて下さい。
ここにいる神子様は必ずや私達を救って下さる。ですから、どうか神子様が行う事全てを受け入れて頂けるよう進言します!」
トールさんがそう告げた瞬間、トールさんから光が身体を覆うように出現し、それが天へと放たれた。
そして、私達の目の前に神々しい光の塊が出現した。
あまりの眩しさに目を覆っているといつしか光は消失し、代わりに雪のように白い龍人族が姿を現した。
「トールよ。いかなる理由があったとはいえ長を手に掛けるとはあってはならぬ事。じゃが、此度の件、我白龍の長の過分な振舞いに原因がある。すまぬ」
龍神が人型になれる事をあたしはこの時初めて知った。
そう、目の前にいるのは龍人族ではなく、人型になった白龍。
人とは思えないほどに美しい女性の姿をした白龍は、申し訳なさそうに口を開いた。
「トールよ。苦しみをその身に背負わせた事、申し訳なく思う。じゃが、罪は罪。我らは其方から神子の資格を剥奪する。それが、其方に下す処罰じゃ。この先、其方はただの龍人族として民達と同じ寿命を全うするがよい。
また、そこにおる神子は青龍の頼みで動いている。
よって、それは我等の総意とし民達には助力を惜しまぬよう命を下す」
「……あ、ありがとう御座います!」
神子の資格剥奪。それは、神子にとっては大罪を犯したから行われる罰。
だけど、トールさんはその言葉を褒美を与えられたかのように何度も嬉しそうに頭を下げ続けた。
そして、それは白龍が姿を消すまで続けられた。




