第27話:会議の本当の目的【4】
トールさんの頷きにアイスさんが意を唱えようとしたけれど、トールさんはアイスさんが口を開くのを許さないかのように続けた。
「くだらない弁明は必要ないよ。何故ならその事が気になった私は、ずっと君を観察していたんだからね。
ねぇ?いくら君が白龍の集落一の武芸者でも青龍の民二人を殺すのは骨が折れたでしょ?かなりキツそうだったもんね」
今、とんでもない事を言いませんでしたか?
青龍の民を殺した?アイスさんが?
え?ちょっと待って。
そういえば初めて青龍の集落に行った時に、仲間を殺したのはあたしだとか言われて牢屋に入れられたんじゃなかったっけ?
「……アイス。どういう事だ?」
ジェイドさんが今すぐにでも飛びかかりそうな表情でアイスさんに問い質した。
「濡れ衣だ!私がそんな事をする人間だと思うのか!?」
「……見えない」
ジェイドさんの返答に安堵したアイスさんだったけれど、ジェイドさんの次の言葉に目を見開いた。
「見えないが俺はトールを信じる。お前は知らないだろう。トールはこの島の全ての龍神に選ばれた神子だ。
龍神様から授けられたギフトである感知能力は間違う事はない」
『神子』という言葉にアイスさんは凍り付いた。
ハインツさんも知らなかったのか信じられないといった風に目を見開いている。
だけど、ハイドさんもセレナさんも知っていたらしく驚いた様子はない。
いや、その事よりもアイスさんが自分の民だけではなく青龍の民まで殺したという事に驚いているようだ。
「トール!何故今まで言わなかった!?」
ジェイドさんの怒りは、アイスさんだけではなくトールさんにも向けられていた。
「君の性格じゃアイスに復讐するだろ?だから言わなかった。
それに、アイスの気持ちも解るからね。アイスが改心してくれれば丸く収まるだろうと思っていたから波風を立てたくなかったというのが本音かな」
「アイスの気持ち、だと?」
剣呑な視線に動じることなく、トールさんは当然の事かのように答えた。
「私も一瞬考えたからね。
て、待て待て!いきなり殴らないでくれよ」
トールさんはジェイドさんの拳からなんとか逃れると、話を続けた。
「気持ちは解るけど最後まで聞いてからにして欲しい。
いいかい?龍人族は外敵がいないし丈夫だから病死する事もなく人口が増えていってしまった。それによって食料不足という問題が生まれてきてしまった。これを改善するためには人口を減らすしかない。
そこまでは私はアイスと同意見だった。
私は修行と称して育ち盛りの若者を外地に向かわせて、それと同時に白龍の農耕技術を教えてもらえば緑龍の地でも農耕が出来る。そうすれば食問題は改善できると私は判断した。だけど、農耕技術はいくら頼んでも教えてくれる事はなかった。協力し合わないとこの先に龍人族の未来はないというのに何故だと疑問だったよ。私が他に方法がないか考えている間に、アイスは人口を減らす事のみに執着していった。
そしてアイスが目を付けたのは赤龍の民だった。生産性のない彼らを死なせても害はないと判断したんだろうね。かといって一方的にやっては周囲から反発もある。だから貯蔵倉庫が襲われた時にチャンスだと感じた。怒りを赤龍の民に向ければ彼らが全滅しても誰も咎めない。その筈だった。
だけど、ジェイド、君は赤龍の民を救おうと色々考えていただろう?
アイスにとってそれが障害だった。
だから青龍の民を殺したんだよ。
赤龍の民に殺されたという事にすれば、いくら正義感の強い青龍でも赤龍を滅ぼそうと立ってくれるに違いないって思ったのさ。
アイスの行動は間違っている。だけど、赤龍の民は既に人肉を食べるという禁忌を犯しているから私は見てみない振りをする事にしたんだよ。
だけど、様子を見ているうちに私はある疑念を抱いた。
もしや、アイスはこれを機に自分の権力を誇示したいのではないだろうかと、ね?
食料がなければ、皆アイスに頼むしかない。すがる私達はアイスに頭が上がらなくなるのだから、一番の権力者といってもおかしくないからね。
だから、農耕技術を教えてはくれないのではないかと思うようになり、アイスの次の手を待つ事にした。
そんな状況の中、神子様がこの地に現れて下さった。しかも青龍の地にね」
え!?あたし?
いきなり振られて動揺するあたしにトールさんは楽しそうに笑った。
「こんなに小さいけれど、彼女はこの世界を造った神の加護を受けている。格は私よりずっと上だ。
そんな神子様がいきなり牢屋に放り込まれたというのに、分の悪い取引に応じて龍人族を救って下さると仰せになった。
私は、神に感謝したよ。創成の神は私達を見捨てずにいて下さっているのだと感じずにはいられなかったからね」
あの神様そんなに偉いのか……子供みたいなんだけどな。不貞腐れるし……
でも、転生先はどの地にするかは選べないと言っていたから偶然だと思うのだけど。
あたしがそんな事を思っているとは知らず、トールさんはあたしに突然膝をついて頭を垂れた。




