第26話:会議の本当の目的【3】
「ハイド。折角いいところだったのに、邪魔しないでくれないか?」
その台詞はからかうような口調なのに冷たい氷の刃のようで、ハイドさんの動きが止まった。
いや、ジェイドさんもセレナさんもハインツさんも表情を強張らせている。
その瞬間、あたしは悟った。
長老の中で一番格が上なのはトールさんなのだという事を。
「丁度良いから私の目的を話すよ。
私はね、この話し合いで神子様の御前だというのに相変わらずにアイス、君が反対するようなら君を、いや、白龍の集落は切り捨てるつもりだったんだ」
その言葉に周囲が静まり返る中、アイスさんだけがトールさんに噛み付いた。
「食料を恵んで貰っている立場のお前らが私の部族を切り捨てるだと!?困るのはお前らだろう!?」
「はい、出ました。上から目線。
ねぇ、君大切な事を忘れているよ。私達は一つの家族なんだ。だから苦しみも分かち合わないといけないのに何故そんなに上から目線なのかな?」
「分かち合っているから食料を恵んでやっているだろ!?」
『恵んでやっている』という言葉の何処に『分かち合う』が含まれているのだろう?
あたしと同じ疑問を抱いた者はいない。
いや、そんな言葉尻よりもこれから起こる事にジェイドさん達は固唾を飲んでただ見守っているだけだった。
「セレナ」
「は、はい!」
トールさんに呼ばれて、悲鳴のようにセレナさんは返事をした。
「治癒魔法は今使える?」
「も、勿論です」
「そう、じゃあ、大丈夫だね」
そう答えると同時に、トールさんは腰にある剣を引き抜いて、なんの躊躇いもなくアイスさんの右腕を斬り落とした。
それはあまりに一瞬の出来事で、斬り落とされたアイスさんでさえ一瞬何が起きたか理解出来ていないようだった。
だけど数秒後、肩から鮮血が噴き出した。
「ウギャァッッッッ!!!!」
アイスさんは切口を残った左手で押さえながら床中を転げ回った。
斬ったトールさんは眉を寄せて、呻くような吐息を漏らしながら剣に付着した血を払い落として鞘に納めた。
その音に我に返ったセレナさんは、血を浴びるのも構わずに慌てたようにアイスさんの肩に手を当てて治癒魔法を使い始めた。
すると、光がセレナさんの手から輝き、その光がアイスさんの肩全体を覆うように大きくなると次第に光は消えていった。
そして、その代わりにまるでなかったかのようにアイスさんの右腕がそこに存在し、斬り落とされた右腕は持ち主を失い、床に取り残されている。
あたしは、その光景にただただ呆然とするだけだった。
目の前に転がる腕の切口から流れ出る血を現実のものではないかのような錯覚に囚われながら呆然とする事しか出来なかった。
だけど、トールさんは小馬鹿にしたように言葉を紡いでいく。
「男の癖にだらしないなぁ。セレナは見捨てられた赤龍の集落で長としての務めを果たす為に自分でそうやって腕を切り落として食べていたっていうのに」
あたしは、ほぼ無意識にジェイドさんへと視線を向けた。
ジェイドさんは、どうやらあたしがこの事を話したのかと聞いているのかと思ったのか自分は話していないと首を振った。
ハインツさんは驚きを隠さずにセレナさんを見、ハイドさんは眉をしかめている。
「トール。お前の感知能力は何処まで把握している……?」
信じられないといったふうに口を開くジェイドさんに、トールさんは哀しげに返した。
「ん?全部だよ。本当にね、神子様の意見だという事で素直に従ってくれていたら良かったんだよ」
その声は呟いているかのように小さいものだったけど、次の瞬間、トールさんの表情はガラリと変わった。
「ねぇ、アイス。君はハインツの次に若い長だから私の能力を知らないのは仕方ない。
いや、本当の意味で知っているのはジェイド位かな?
皆は私の能力を千里眼たと思っているようだけど、それは君達と大して変わらない。君達は自分の集落の中だけだけど、私はこの島全体を見る事が出来る。
まぁ、かなり魔力が消費されるから滅多にやらないけど。
だけどね、先程ジェイドが私に聞いてきただろう?
『感知能力』と。
その能力は、龍人族が傷付く瞬間が解るというものだ。
彼らが受けた痛みが、そのまま私に跳ね返ってくるという代物さ。
だから、不思議だったんだよ。
白龍の集落が襲われた時、私の身体を槍で貫かれた痛みが襲ったんだからね。
ね?不思議だろ?槍は龍人族ではよく使われる得物だけど、赤龍の民は剣を使う。なのに、何故、『槍』だったんだろう?」
槍は龍人族の武人が好んで使う武器だ。
ジェイドさんは剣と槍を両方使うけれど、得物が長い為空を飛ばない者達がつかう事が多い。
だけど、赤龍の民は武器を持っていない。
いや、正確には武器を使う理性さえ残っていないというのと、武器を手入れする余裕が存在していないといった方が正解かもしれない。
あたしを襲って来た人は、木の棒や素手で噛みついていたし……
え?ちょっと待って。
「ト、トールさん。もしかしてトールさんはアイスさんを疑っているの?」
あたしの問いに、トールさんは肯定した。




