第30話:やる気スイッチはどこにあるのか
あたしがあちこち回っている間、現場監督のカッツェさんはかなり苦労していたらしい。
3日おきに班編成をしてもサボる者が出るというのだ。
理由は重労働だからといったものだった。
確かに、導管1つの重量は中々のもので、大人4人がかりで運ばなければならない。
しかも険しい山道だからその労力は計り知れないといってもいい。
だから、投げ出す者が出てきたという。
やはり、出来上がったものを見ていないからそれがどんなに凄いものかは理解出来ないんだろうな。
あたしは、作業を一旦中止するように伝え、民達を広場に集めた。
そして、サボる人達を広場の中央に集めて理由を聞く事にした。
「カッツェより、貴様等の中に仕事をしない者がいるとの報告を受けた。
仕事をしなければまともな食事にありつけないというのに、何故職務を全うしないのだ?」
「み、神子様がやればすぐ出来るのに俺達がやる意味が分からないからさ」
怯えながらもしっかりとした口調で答える男の意見を推すように他からも声が上がる。
「そうだ。その通りだ。あれだけ凄い魔法が使えるんだから敢えて俺達がやる必要はない。皆だってそう思うだろ?」
何年も掛かる仕事をあっという間に行うという奇跡を目の当たりにした者達は、それが疑問に感じていたらしい。
真面目に作業をしていた者からも「確かに」という声が聞こえてきた。
あたしは、声を荒げながら恫喝した。
「貴様等には誇りというものがないのか‼」
その声に、何人かが怯えたように耳を塞ぐ。
あたしは、それを横目で見ながら話を続けた。
「この世の中には働かざる者喰うべからずという言葉がある。今貴様等が口にしている食事は青龍の民が貴様等の為にせっせと働いて作ったものだ。
青龍の民達は現状を憂い、なんとか貴様等に自立して貰いたい、働く喜びを持って貰いたいと願っている。だが、その為には力の源である食事がなければ辛かろうと己の食事の量を減らしてまで与えておるのだぞ。
それだというのに貴様等はそんな彼等の善意を平気で踏みにじる言葉を紡ぐ。
貴様等は家畜か?いや、家畜でさえ働いているのだ。貴様等と家畜を比べたりしたら家畜にさえ失礼というものだな。
まぁ、よかろう。私にやれというのなら別にやってやっても構わぬ。
だが、私は出来上がったものを貴様等に決して使わせぬ。
当然であろう?私が労力を削って完成させたものをどうして他人の貴様等に恵んでやる道理がある?
私は青龍の民には義理があるが、貴様等にはそんなものは欠片もないのだからな。
それで、貴様等はどうする?今度は私の水を盗むのか?ならば貴様等は龍人族としての誇りを失ったうつけ者だな。
何故貴様等の力でやらなければならないのか?うつけ者の貴様等には到底解らぬ事であろうから教えてやろう。
この工事を見事完了させれば、龍人族全てがその水を飲めるようになる。
つまり、恵まれるだけだった貴様等が他の龍人族と対等になれるという事だ。
赤龍の民を厄介者だと思う者はいなくなり、貴様等は自分の力で大地に立つ事が出来るのだ」
あたしのその言葉に、働いていた側から声が上がった。
「対等になれるの、ですか?」
よし、食い付いてきた。
あたしは満足しながら頷いた。
「それどころか将来的には感謝される事になる」
聞き慣れない響きにその若者は、戦きながらも急くように言葉を紡いだ。
「我等が感謝されるというのですか!?何故です!?」
「感謝されて当然だ。何故ならばここを主流として貴様等が今後ここで見て体験した知識を使い、他の集落に水を流す水路を作るのだからな。
今まで、この国でやられる事のなかった新しい技術。
それを披露すれば、貴様等の功績は子々孫々に渡るまで語り次がれるようになる。
龍神国を発展させた素晴らしき技術者としてな。
だが、貴様等は目先の事に目を奪われ、楽な方へと流れようとしている。
己の地位を挽回するまたとない機会を棒に振るのは得策とは思えぬ。他の集落の民なら涎を垂らしながら飛び付くであろう。
だから、私は貴様等を家畜以下のうつけ者と呼んだ。
どうだ?ここまで言ってもまだ私がやった方がいいと思うか?」
この言葉に、殆どの人達が思い思いの想像を膨らませて気合いが入っていくのが見て取れたけれど、サボり組はまだ納得していない様子であたしを見ている。
「まだ解らぬのか?」
「分からないね。子々孫々なんて大きい事を言っている根拠が分からないですからね」
水路を作った最初の人間だからって言ったじゃないか。
メンドクサイなぁ。
「今貴様等が作っている水路は、一度作れば管理を怠らない限り千年先も現役として機能するからだ。
生きる為に必要な水を安心して気軽に使う事が出来る。それが、どれ程重要なのか貴様等なら骨身に滲みている事であろう。
だからこそ解るハズだ。この工事がどれ程偉大なのかを!
それが、語り継がれぬわけがなかろう?自然と人々の口に上り拡がってゆくのは火を見るより容易い事よ」
今まで硫黄泉しかなくて、まともな水さえ飲む事が出来なかった。
それが、手軽に手に入るという言葉にやっとみんなのやる気スイッチをonにする事が出来たらしい。
彼等の瞳に力が入り始めた。
そして、今までもよく働いていた男の一人が檄を飛ばし始めた。
「みんなやろう頑張ろう!俺達もやれば出来るって事を教えてやろうぜ!」
すると、他の男も立ち上がった。
「お、俺もやるぞ!で、息子に尊敬されて『父さんのようにカッコ良くなりたい』って言わせるぞ!」
「おい、もしかしたら女にもモテるようになれるかもだぞ?」
「マジか!?」
「だって考えても見ろよ。偉大な仕事ってヤツをやるんだぜ?他の集落の女だってイチコロだろ?」
「なるほど!じゃあ、俺が一番になって女の人気を独り占めしてやるぞ!」
「なんだと!?お前より俺の方が出来るに決まっているだろ」
「いや、それは俺だ」
次々に声が上がり、熱を帯びてくる。
いい傾向だ。
いい傾向だけど、水より女、女なのか!?
邪な理由過ぎて頭がついていけなくなってきた……
その間も次から次にそんな声で白熱していく。
「神子様!俺達も水路の掘り方や配管の作り方教えてください!そうすれば絶対にモテるハズだ!」
「え?あ、はい……?」
どうしよう。なんか変な方向に行っている……
でも、まぁ、やる気にはなっているみたいだし、これでいい事にしちゃおう。うん。




