第23話:初めての商談【3】
「快く受けて頂いたので、もう一つ。
これはこれから先の事になります。
今はまだ開発中の事なのですが、是非グリックさんに投資して頂きたい案件があります」
「……聞かせて貰いましょうか」
グリックさんの表情が変わった。
出来あがっている商品と投資とでは質が違う。
失敗すればグリック商会は大赤字になるのだから真剣度が違うのは無理もないと思う。
ここが、正念場だ。
水路を作る段階で、赤龍とセレナさんには了解を既に得ている。
後は、他の龍人族の了承とグリックさんの協力を得られればこの先の未来は明るいモノになる。
だから、しくじるわけにはいかない。
あたしは気持ちを引き締めて内容を話した。
「赤龍の集落を温泉街という観光名所にしようと考えています」
「カンコウとはどういったモノなのですか?」
「お金持ちの方が、避暑の為に別荘に行かれたりしますよね?それを一般人向けにしたものと思って頂ければいいかと思います。
温泉街というのは、自然に湧いているお湯に浸かるのを楽しむための施設になります。
入浴の習慣がないと先程言われていましたが、それは水不足だからですよね?
ですが、一度はお金持ちの人のように入浴をしてみたいと思う方もいるはずです。
赤龍の地にはその水が余るほどにあります。
実は、その水は白く濁っていて独特の臭気もあり、民達は毒水と嫌煙していた代物です。
ですが、それは大量に摂取した場合であり、少量を飲めば便秘に効果があり、その湯の蒸気を吸い込むと、痰が切れるようになるという素晴らしい湯なのです。
更に入浴すれば、軽い切り傷の治りが早くなったり、身体の節々が痛む方にも効果があります。
これに浸かる為の専用の旅宿を作ろうと考えています。
お金持ちの方から冒険者などの一般の人が楽しめるようにそれぞれのランクを用意し、それぞれが癒せる街を赤龍の集落に建設したいのです」
日本では馴染みの深いものだけど、この世界では未知の試みだ。
予想通り、グリックさんの表情は厳しい。
「旅というのは本来疲れるものです。旅支度もしなくてはならないし、泊まる宿もすぐには見つからない。宿を見つけるだけで1日を潰す事もあります」
「ですので、集落が拓けたら旅行会社をグリックさんの商会で作るんです。
ここまでの船を用意し、船は一人部屋から雑居部屋まで運賃の値段を変えます。そして宿もグリック商会が斡旋して、予約という形で用意しておいて運賃と宿代を纏めた料金を旅行パックとして、それを商品として売り出すんです。
また、食事も付けるか素泊まりかで旅費の値段を変えます。
素泊まりならもちろん安くなりますが、食事に困らないように集落で店を用意する。店は集落の民が自由出店するだけではなく、グリック商会も出店すればそこからも儲けになる。
如何ですか?ちょっと気になって来ませんか?」
少しだけ、瞳が輝き始めたのを見逃さず、あたしがそう振るとグリックさんは視線をさ迷わせた。
なんかいい感じ。なら、更に畳み掛けちゃおう。
「本来龍神国は、人が立ち入る事が出来ません。それは、険しい立地もあるのですが、龍神様が外部から人が入れないように結界を張っているからです。
ですので、グリック商会の船だけ入れるようにします。
これが、先程の水の売り上げを半分貰うという暴利な設定にした理由の一つです。
半分の利益を支払う事で、グリック商会は専売権だけではなく、入国権を得る事が出来るのです。美味しくないですか?」
ほぼ鎖国状態と言ってもいい国の入国権まで得られるのならかなりの魅力のハズ。
あたしはそう確信して止めを一手を打った。
「もし、他の商会が出店したいと望んだら許可をするのもいいでしょう。ですが、開拓をしたのはグリック商会です。
ですから、ショバ代として売り上げの何パーセントかをグリック商会に納めるようにすれば、グリック商会の名声は商人の口から広がる事は間違いない。何しろ、唯一の入国権のあるグリック商会が龍神国を独占せずに僅かなマージンしか要求せずに提供するのですから。商品の3割が相場ならかなり善良な設定だと感じるハズですからね。
如何でしょう?」
「……貴方は商人に向いていらっしゃる」
暫く唸っていたグリックさんの口からそんな言葉が漏れた。
そして、次の瞬間笑顔で握手を求めてきた。
「貴方の申し出、全てこのグリック商会が請け負いましょう。初の試みをグリック商会が行ったという功績を残すだけでも充分に価値があると判断しました。
これより先、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
そう握手を交わして、あたしはいたずらっ子らしく笑った。
「あ、そうそう。ついでに特典付けちゃいますね。
何かと費用の掛かる道の整備もあたしが魔法でやっておきます。
ですので、グリックさんはどんな風に開拓しようとしているのかあたしに相談してくれると嬉しいです」
「……それは最初に言って下さったら速答で契約してましたよ」
「困難そうな内容でも協力して下さるのか、商人としてのグリックさんを試したかったので」
「貴方という御方は……」
あんぐりと口を開けたグリックさんは、やがて本当に楽しそうに笑みを浮かべた。
「敵いませんな」
そんな言葉を付け足して。
こうして赤龍の集落復興プラスアルファ計画は始動したのであった。




