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第15話:カッツェの心



 ☆


「神子?神子!?」


 私の腕の中で、神子の体温が下がってきているのが伝わる。

 理由は判っている。

 魔力切れだ。

 今日一日で神子は、岩を切り崩した後に均等な大きさの四角い岩の塊を造り、そしてその岩の中央には丸い筒状の穴を開けていた。

 初めのうちは一人でやっていたが、岩の塊に穴を開けるくらいなら初級の土魔法でも出来るため私も手伝ったが、神子はそれと同時に水路を作るための穴も掘り続けていた。

 いくら魔力値が高いといっても同時進行で行使し続ければ魔力切れを起こしてもおかしくはないだろう。


 私は神子を落とさないように抱き抱えて、彼女を休ませるべく仮住まいの家へと向かった。


 神子は真綿のように軽かった。

 父上が幼いか弱い子供として扱っているが、こうしていると確かに父上の気持ちが解る。

 目を閉じている姿は、何の力も持たない幼子にしか思えなかった。

 小さくてか弱そうで、そして柔らかい幼子。

 そんな彼女に鞭を打つように仕事をやらせる。

 正直、良心の呵責があるが、彼女の力に頼るしかない。


 頑張って貰わなければ。

 そして、そのお詫びと礼の気持ちを込めて私は彼女の助けになるよう力を尽くそうと決意を新たにしたその時、それは起きた。


 村人達が夢遊病者のように覚束ない足取りで立ちはだかったのだ。

 夢遊病者と違う所は、目の色だ。

 その色は食欲という狂気に侵されたけだもののように光っている。

 赤龍の長に釘を刺されというのに、彼らは神子を捕食対象者としか見ていない馬鹿共。


 予測はしていたが、怒りを覚えた。

 誰の為だと思っているんだと。


 相手は殺す気で迫ってくるが、こちらは殺すわけにはいかない。

 神子が救おうとしている命を奪っていいワケがないのだから。

 だから、面倒ではあるが追い払う事にした。


 私は神子を背負い、腰にぶら下げていた剣を鞘を付けたまま抜くと、飛びかかってくる男達をそれで殴り付けた。

 一人、また一人と剣の餌食となって大地に転がる。だが、男達は懲りずに襲いかかってくる。

 そのうちの一人が、私の後ろに回り込み、直接神子に襲いかかってきた。

 神子を守る為に咄嗟に身体を反転させた次の瞬間、腕に熱が走った。

 大地に紅い雫が滴り落ちる。

 私の腕に喰い付いている男はその雫を啜り始めた。

 まるで、魔族の地に住むという吸血鬼のように。


「クッ!」


 全身が粟立つのを感じながら男を突き飛ばし、家の中に逃げ込んだ。

 誰も入って来ないように結界を張ってから神子をベッドに寝かした所で、その場に崩れ落ちた。


 理性というものが存在しない。判っていた事だが、あれは既に人ではない。

 あんな化物と化した奴等を救う意味があるのだろうか?

 寧ろ、滅ぼしてしまった方がいいのではないだろうか?


 判っていた事と解る事とは違うのだと実感した。

 限界を超えて追い詰められていると判断したから助けなければと思った。

 だが、見境がない状態というものに触れ、理解した。

 もう、手遅れだったのだと。

 あそこまで狂った状態ではいくら助けても、もう人としてまともな人生を全う出来るわけがない。


 ならば、神子に負担を掛けてまで救う価値はそこには存在しない。

 彼女が目覚めたら進言して、この計画は打ちきりにしよう。


 私は、眠る彼女を眺めながら、そう考えを改めた。



前回、今回とやや短くなっています。

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