第11話:地獄の里
案内された先で、赤龍は待っていた。赤龍は広げていた羽を閉じて姿勢を正すと、会釈するように頭を下げた。
「神子。よく来た。此度は我民達の為にすまぬ」
「いえ……」
赤龍は青龍の半分ほどの大きさしかなかった。
青龍同様に威厳はあるけれど、弱っているように見えた。
「赤き龍神様よ。その体躯はいかがなされたのですか?」
長、ジェイドさんは他所行きの言葉遣いで眉根を寄せて聞いた。
「……龍神様は、私達の為に自らの玉体を民達に振舞っていらっしゃいます。その度に玉体が小さくなってしまわれて……」
その言葉に、長は目を剥いてセレナさんを責めた。
「そなた等、共食いだけで飽き足らず、よりによって龍神様まで喰ろうたと言うのか!?」
「青龍の長よセレナを責めるでない。我が望んだ事だ」
「だからと言ってあってはならぬ事だ!セレナ、そなたもまさか、喰ろうたのか!?」
「違う。セレナは我を食してはおらぬ」
ならば、どうやってセレナさんは生きて来たのだろうか?
新たな疑問が湧いて来て、あたしは視線をセレナさんに送った。
すると、セレナさんは意味の解らない返答をした。
「私は治癒魔法を使えますので」
治療魔法でおなかが膨れる事はない。
それなのにそんな返答をしてきた彼女に、後方で控えていたカッツェさんが、震えた声で訪ねた。
「まさか、自らの身体を切り落として、それを食べていらっしゃったのですか?」
セレナさんは黙ったまま小さく頷いた。
「そ、そんな……」
カッツェさんは、言葉を失ったまま後退さった。
あたしも言葉を失った。
だって、治癒魔法で再生出来ても切り落とす時の痛みが消えるわけじゃない。
そんな生活を送り続けたら憔悴するのも当たり前だ。
でも、彼女は長だ。
飢えて死ぬ事さえ許されない立場なのだと悟った。
「赤の龍神様。この集落は何故、作物を生産出来ないのですか?
生産出来れば飢える事はないはずなのにそれをしない。
あたしはその理由が解らなくて此処に来ました」
あたしまで、怯んじゃダメだ。何とか方法を考えないと!
「此処より北に向かった所に毒の煙が出るのだ。
この煙を吸った者は皆、胸を掻き毟り間もなく死に至る。
また、この集落の湧水は、その煙と同じ臭気を放ち白く濁っている。飲んで腹を下し死んだ者もいれば、肌が爛れた者もいる。それ故作物も実らぬ」
下痢になる、肌が荒れる、白い水、煙を吸った者は死ぬ。
と、いう事はもしかしたらアレかもしれない!
日本人に馴染み深いアレが、この地にある!
ならば、もしかしたらイケるかもしれない!
あたしは、思わず笑みを浮かべた。
その様子にカッツェさんが咎めるように咳払いをしたけれど、そんな事はどうでもいい。
あたしは一筋の光明を見つけて笑わずにはいられなかった。
「そこへ行く許可を下さい!」
当然、集落の様子を見るならともかく、毒の発生源へ行くなんて危険以外の何物でもないと周囲は猛反対してきた。
だからあたしは、その場所こそが赤龍の集落が発展させる存在である事をアピールし続けた。
ゲットした交渉スキルは勿論、フル活用させましたよ。
その甲斐あってあたし達は今、毒の発生源である山上空にいる。
その場所は、クリーム色のような黄色い煙が上がっていて、周囲の大地も灰色、白、黄色の色が着いていて、もし地獄が存在するならこんな感じだろうなという風景だ。
独特な臭気もあるため、カッツェさん達は顔をしかめている。
「セレナさんを連れて来なくて良かったな」
「神子が、同行を許さなくて正解ですね」
当前だよ。毒の耐性を持っている龍ならいいけれど、あんなに弱った状態のセレナさんを連れてきたらあっという間に彼女は天に召されてしまう。
「しかし、この臭い。人が立ち入れる場所ではない事は確か。神子殿は何故この場所を宝と言うたのか解らぬ。
説明をしてくれぬか?」
赤龍の前だからか、ジェイドさんは長モードのままで訊ねてきた。
「もう少し調べる必要があります。
その為に先ずは、あの地に降りて調べます。とはいえ、濃度の濃いガスが出ているので、全身を風魔法と水魔法を使ってプロテクトします」
「神子。父上は水魔法を得意としないので、私が同行します。
説明は私にしてくれれば、テレパシーで伝えます」
ジェイドさんが口を出してくる前に、カッツェさんはそう素早く言うと、先に下へと降りていった。
置いていかれたあたしは、急いでプロテクトを発動させてカッツェさんの後を追った。
後で、絶対文句を言われそうだなぁ……
まあ、その時はカッツェさんを盾にしよう。
そう心に決めて大地に降りると、地熱がかなり高い。
周囲を見渡すと、あちらこちらで煙が上がっている。
プロテクトしていても臭いが強いので、あたしはプロテクトの精度を更に上げるようにカッツェさんに伝えると、周囲を歩き回った。
「……なんとも言えない臭いですね」
プロテクトの精度を上げてもこの臭いは完全に消せない。
カッツェさんは、鼻を摘まんでいる。
「あたしの世界では、卵が腐ったような臭いと表現してる」
「卵を腐らせた事はないですが、こんな臭いになるのですか?」
どうやら卵は存在しているらしい。
だけど、あたしの口に入った事はないので、貴重品みたいだ。
貴重なものなら腐らせるなんて勿体ない事は、確かにしないよね。
「そう。実はこんな臭いなんだよ」
だから、あたしはそう答えるに止めて調査を続けた。
毎回、遅筆で本当にすみません。




