第9話:空を飛んでみよう
その後、あたしは交渉スキルを振り分けてマスター状態にして、なんとか堅っ苦し過ぎる敬語を撤廃させて、脱線しまくった本来の目的である『フライ』の習得講習に入った。
でも、早速難問にぶつかった。
「ごめんなさい。魔法名以外何を言っているか全くわかりません」
「ですから、~~~~~『フライ』です」
だから聞き取れないんですってば!
あたしが本当に解らないのが伝わったのか、カッツェさんは困ったように眉を寄せていた。
天の声に『詠唱が使えるスキルが欲しい』と訴えてみても反応もしない。
龍人語を習得した時のようにいかないのだ。
「神子。魔法を何でもいいからちょっと使ってみてくれませんか?」
何でもいいと言われても、見えるヤツがいいんだよね?
あたしは、悩んだ末に火の魔法を使う事にした。
人差し指を立てて、ライターの火が点くようなイメージでやってみると、思った通りの小さな炎が指先に灯された。
それを見たカッツェさんは驚いたように目を見開いた。
「で、では、その火を少し大きくして宙に浮かせてからあの岩に当てられますか?」
「やってみます」
火の魂をイメージしてフワフワ浮かせるとそのまま目の前の小さな岩まで移動させた。
そして、岩に当たると岩は熱を帯びて赤く光りながら溶けた。
「凄い!無詠唱で使えるなんて!火の玉のスピードは変えられますか?出来るだけ速く」
「そのくらいなら」
指を銃の形にしてから弾丸が飛ぶイメージで火の魂を打った。
すると、今度は岩が砕け散った。
『ファイアーボールを習得しました』
「え?ファイアーボール?」
なんか初めてRPGの魔法らしい名前が出てきた。
「そう、ファイアーボールです!流石は神子。
今のでよく判りました。無詠唱のギフトまであったのならそう言ってくれれば良かったのに」
いや、この世界の常識と思っていたから言えと言われても困る。
「指導方法を変えましょう。空を飛ぶイメージをしてみてください」
空を飛ぶイメージって……
鳥って確か糞を出して身体を軽くして空を飛ぶんだよね?
なら、無重力なら軽くなるし、ジャンプするだけで飛べるはす。
そう思って自分の身体を無重力にしてから軽く地面を蹴ってみた。
だけど、その時傍にいたカッツェさんに手が当り、あたしは宙をクルクル回転するはめになってしまった。
カッツェさんに受け止めて貰わなきゃ目が回って大変な事になってました。
「神子。今のは風魔法ではないですよね?」
「身体を軽くしようと無重力に……」
「成程。重力魔法か。
方法次第では組み合わせて行けますね。神子。重力を制御しつつ風に乗ったり、風を……そうだな、風を起こして前に進むようにイメージしてみてください」
風に乗るというのは鳥が滑空する時のアレだと思うけれど、風を起こして前に進むにはどうすればいいのだろう?
お父さんが持っていた超人が出てくる主人公っておならで飛んでいたなぁ。
いや、でも、それは流石に試したくない!
そうなると飛行機だけど、いまいち構造がわからない。
だから、ヘリコプターをイメージしてみた。
揚力と重力のつりあいを調整してみる。
すると、空中に浮いて停止する事が出来た。
今度は推力を使って前に進もうとしたら、次の瞬間、猛スピードが出た。
「ウッッキャーァッッッッッ!!!!!!」
死ぬ、間違いなく死ぬ!
あたしは必死に右手を伸ばしもがいた。
意味のない行為だった。
でも、そのせいで今度は身体が高速スピンし始めて、結果魔法の制御が出来なくなり、急降下した。
「神子!」
カッツェさんの焦るような声と同時に強い衝撃が身体を貫いた。
「だ、大丈夫、です、か?」
苦痛そうな声が上がったので、声がする方を見てみると、そこにはカッツェさんが苦痛そうな表情で倒れていた。
しかも、あたしの下敷きになって!
「ご、ごめんなさい!」
慌ててそこから退くと、カッツェさんは身体を起こして頭を振っていた。
そして、自分の身体がなんともない事を確認すると、あたしを見てクスリと笑った。
「そんな顔しなくても大丈夫です。龍人族は身体が丈夫なのが取り柄ですから。
それよりも、神子に怪我がなくて良かったです。
さて、神子。何故失敗したかお分かりですか?」
鉄は熱いうちに打てとばかりに、立ち上がると早速授業を再開し始めた。
「推力、えと、前に行こうとする力を巧く調整出来なかったからだと……」
「半分正解ですね。推進力を調整出来れば速度はある程度調整できるけど、一番大事なのは後方も意識するという事です。推進力だけでは急に止まる事は不可能ですから」
「あ、そうか!」
ここで漸くあたしは自分の失敗に気付いた。
ヘリコプターは揚力、重力、推力、抵抗を調整して空中停止、降下、上昇、前進、後退をしている。
中学校の理科で習ったのに、あたしは抵抗を完全に見落としていた。
いけない、いけない。
「多分、次は大丈夫だと思います」
「そうですか。では、早速やってみてください」
間髪入れずに言ってきた!
意外にドS要素あるかもしれないと思いながらも、あたしはそれに従った。
揚力、重力を使って高さを調整して、揚力でスピードを上げて、抵抗を使って速さを調整したり、バックしたりしてみた。
すると、先程までのが嘘のようにスイスイ飛べるようになった。
『フライ……改を習得しました』
天の声さん、今魔法名悩みませんでしたか?
まあ、とにかく飛べたので良しとして、あたしは次の講義へと移った。




