第8話:長の息子は文系男子?
各集落の状態を知りたいけれど、それよりも赤龍の集落の状態を見るべきだ。
本当に赤龍の集落には何もないのか?何か1つでもあれば救う手だてがあるかもしれない。
そう二人に訴えると、長が難しい表情で口を開いた。
「赤龍様が結界を張ってからは立ち入る事が出来ないんだ。だが、赤龍様と赤龍の長になら会う事は出来る」
「まずは、それでもいいです。会わせて貰えますか?」
そう頼み込むと、二人は渋々ながらも了承した。
「そうであれば、我は赤龍に話をつけてこよう。その後、そなたが自由に動き回れるよう他の龍達にも話をつけてくる。そなたはフライは当然使えるであろう?」
フライ?響きから判断すると空を飛ぶ魔法ということだろうか?
あたしがキョトンとしていると、龍神は信じられないとばかりに続けた。
「あのような錬度の高い風魔法を使いこなしたというのにフライが出来ぬのか?」
いやいや、青龍の民でさえ使える人減ってるんでしょ?
なら、使えないのが普通だと思う。
「ジェイド」
「はっ。龍神様がお戻りになられるまでには必ずや」
「末の子にそのように伝えよ」
「え?」
自分が教えるつもりだったのだろう。
長は明らかに不満そうな表情をしたけど、それを綺麗に無視した。
「あの者、物腰こそ柔らかいが、文武共に頭角を表しておる。優秀な子だ。
年も成人とはいえ、この娘に近い故、良き相談役となろう」
言うべき事は全て言い終わったのか、龍神は長の言葉を待たずに空へと飛んでいった。
命令ならば従わないワケにはいかないのか、長は帰りの道中ずっと不機嫌なままだった。
☆
集落に戻って紹介された青年は龍人族らしくない容貌だった。
なよなよしているワケじゃない。
逞しさは確かにあるけれど、龍人族はラグビーの選手のような太い筋肉の持ち主が殆どだというのに、彼は細マッチョなのだ。
服を着ていると、逞しそうには見えない。
しかも、右目には鼻ブリッジタイプの片眼鏡を掛けている。
そのため、余計文官のように見えてしまう。
「初めまして、神子様。カッツェと申します」
思わず吹いた。
「どうかなされましたか?」
「いえ、なんでもないです」
この国ではわからないけど、ドイツ語では『猫』という意味だ。
龍人なのに猫って名前に思わず吹いてしまうのは仕方ないと思う。
カッツェさんは訝しげにしていたけど、まずは、詫びを入れてきた。
「まさか神子様だったとは知らず、あのような場所に閉じ込めてしまい申し訳ございませんでした。長より飛べるようにするよう仰せつかっていますので、龍人族の誰よりも立派に飛べるよう御手伝いさせて頂く所存です」
堅い!堅い、堅い!堅過ぎるよ!
こんなんじゃ逆にあたしが畏まってしまう。
「あの、ですね。出来ればもう少し砕けた感じで接して貰えると嬉しいかな、と……」
「ですが、神子様に無礼な物言いは失礼かと存じます」
集落に戻った後、長はあたしが神子である事を民に報告した。
そして、そんなあたしを不当に扱ったとして龍神にお叱りを受けたと付け加えた(そんな事は龍神は言ってないのに)為、あたしは畏れられる存在になってしまった。
そんな中で、カッツェさんはちょっと違った。
怯えるというよりは、神子がどんな存在なのか把握して敬っているといった感じだった。
「でも、あたしが希望しているならいいと思うんです。そもそも神子ってなんなのか、よく解ってないし」
あたしがそう答えると、カッツェさんは神子について説明してくれた。
神子というのは、何かしらの能力を神からギフトとして与えられている者らしい。
あたしの場合、いきなり早く走れたし魔法やスキルも直ぐに覚えられた。
なら、それがギフトって事なのかな?
聞いてみたらめちゃくちゃ驚かれた。
「そうです。それが、ギフトです。神子様は本当に神に愛されている御方なのですね。
本音を言わせて頂ければ、父の発作に振り回されたの龍神様が父に付き合っただけだと思ってはいたのですが……複数のギフト持ちという事ならば龍神様がお怒りになるのも当然ですね」
神に愛された覚えはない。寧ろあの少年は暗闇の中では怒っていたし、先日も不貞腐れられちゃったし。
龍神だって怒るどころか、その状況を利用して観察していたそうだし……
ん?今、『父の発作』と言ってなかった?
「長さんの発作ってもしかして子供が好きってヤツだったりします?」
「やはりあのバカ父、神子様に御迷惑を御掛けしたのですね!?」
あまりの剣幕に事情を聞いてみると、他の兄弟達の成長から、ふてぶてしい男の子ではなく可愛い女の子が欲しいと望んでいた長は、カッツェさんを女の子のように育てたそうだ。
筋トレしようとしたら取り上げられ、外に出れば日焼けするからと出しては貰えず、いつも家の中でだっこされていたそうだ。
で、このままではダメになると感じたカッツェさんは勉学に勤しみ、長に隠れて身体を鍛えてきたという。
なんて健気なんだ!こっそりやらなきゃいけない彼があまりにも不憫に思えた。
「カッツェさん。あたしと友達になりませんか?」
え?あたし突然何言ってるの!?
「とんでもない!神子様と御友人になるなんてあってはならぬ事です!」
即答で、拒否られました。
凹む。かなり傷付くなぁコレ……『あってはならぬ』とまで言われたよ。
だけど、それも仕方ないよね。神子なんてよくわからない種族と係り合いになんて普通なりたくないもん。
心が既に折れて落ち込んでいるはずなのに、何故かあたしの口は意思とは関係なしに回り続けた。
「あってはならないなんて誰が決めた事?あたしが、カッツェさんと仲良くしたいから言ってるの。だから、友達としてお互いに鍛えて長さんを見返しましょうよ。一緒に子供扱いさせる気なんて起こさせないようにしよう!」
「父上を見返す……ですが、そのような畏れ多い……」
「多くない。多くないです。あたしが望んでいるんだから」
カッツェさんは戸惑いながらも暫く考え始め、やがて強く頷いた。
「そうですね。その案乗りましょう!
ならば、まずは神子様を龍人族の中の龍人族として徹底的に鍛え上げますよ!」
あれ?もしもし?フライだけでいいんですが……
変なスイッチを入れているカッツェさんの声に反応するように、遠くで天の声が響いた。
『交渉スキルを習得しました』
え?これって交渉になるの!?




