【番外編】14年後の朝の風景
「きゃーーーーー!」
野々宮家の朝は、大抵悲鳴から始まる。
「またか」
「ああいうところ、俺そっくりですよね」
整理しよう。
春都君が「俺そっくり」だというのは、つばさのとある性格のことだ。
思い込んだら一直線。相手の迷惑を顧みない猛攻。・・・確かに父親の血を濃く受け継いでいる。
そして悲鳴の主は、しのぶである。
男の子なのに「きゃー」はどうかと思うのだが、つばさの肉食系攻撃を朝っぱらから受けたら、ヒロイン系の声も出る・・・のかもしれない。
ようするに、朝っぱらからつばさがしのぶを襲っているのだ。
父親の暑苦しい愛情が母親に注がれているように、つばさの愛情は双子のしのぶ一直線なのだ。
多分一線は越えていないはずだ。母親の(あまり頼りにならない)カンがそう告げている。
***
つばさの攻撃を避け、俺は階下に逃げ込んだ。
「おはよう、しのぶ」
「今日も元気ね」
階下のリビングには、経済新聞を広げながらコーヒーを飲む母と、その母をうっとりと眺める父が居た。
父親がこんなんだからつばさが・・・!と怒りが沸くが、朝から口論もないよな・・・とため息をついてテーブルに付く。
「母さん、いつ帰ってきたの?」
「1時間くらい前かな。到着便が遅かったから羽田近くのホテルに泊まってきたの」
「・・・・・・」
父さんが数日前からソワソワしているのを見ていた身としては、『ホテルに泊まる金が出せるならタクシーで帰ってきて欲しかった』と思うのだが、今現在、父さんはこれ以上なく幸せそうなので、黙っておいた。
俺は空気の読める男だと思う。
なんでこの夫婦から俺みたいなのが生まれたのか不思議だ。
「俺とつばさってマジで双子なんだよな~」
「禁断の愛にでも目覚めた?」
「ちげーよ」
母親はいわゆる『デキる女』なのだけど、オタクすぎる。
ちなみにこのオタクの血は、俺には受け継がれなかったが・・・・・・つばさがバッチリと受け継いだ。
「つばさが父さんと母さんの子ってのは、もうあからさまじゃん」
「だねー。『あんなトッピング全部乗せ』な子に育つとは・・・想定外」
「俺は全然似ていないもんな」
「私にそっくりじゃない。オタクなところを除いて」
「一芸に秀でているところは俺似じゃないか。バスケじゃないけど」
「いやー、まさかのサックス。名前がマズかったかな」
「名前? このひらがなの名前のことか?」
そうだよ。なんで男なのにひらがなの名前にしたんだよ。
「えー、しのぶの名前は漢字よ?」
「「え??」」
おい、今父さんも「え?」って言ったぞ。
「私が出産届けを提出したんだけどー。ギリギリになって漢字に変更したの。
男の子でひらがなってイジメに合いそうじゃない?
でも、勝手に変更したって言ったら春都君がうるさそうだったから、黙ってて・・・うっかり今まで言い忘れていたかな?」
いたかな?じゃねーよ!
俺は14歳になる今までずーっと「野々宮しのぶ」だと思ってたんだけど!?
「で、どんな漢字にしたんですか?」
母さんに筆ペンと半紙を渡して父さんが尋ねる。
<命名 野々宮 信符>
格好いいじゃん!
音符の「符」が入っているところなんて運命感じる!
「とっさにBLキャラの名前が浮かんでさぁ。サックスプレイヤーだったんだよね。だから、しのぶがサックス始めたとき何の呪いかと思ったよ(笑)」
以上、14年後の野々宮家でした。
つばさは登場なしですが、「トッピング全部乗せ」な性格です。
しのぶは音楽好きの少年に育ちましたが、それは何かの呪いなのか?
※サックスプレイヤー、信符 という名前でピンと来た人はげんたろうの同類です。




