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悪役令嬢の家庭教師になりました! ~私が我儘なお嬢様を育てていたら、冷遇王子にも懐かれた件~  作者: ドネルケバブ


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第41話 親友からの意外な提案

「……エリシア?」

 王都の通りを歩いていた私は、背後から聞こえた声に足を止めた。

 振り返ると、淡い緑色のドレスをまとった少女が、驚いたような顔でこちらを見ている。

「クラリス!」

「やっぱりエリシアだったのね。こんなところで会うなんて!」

「本当だね! 今日はお買い物?」

「ええ。母に頼まれたものがあって。あなたは?」

「私も買い物だよ。午後からお仕事だから、その前に済ませようと思って」

 クラリスは王立学院に通っていた頃の親友で、侯爵家の令嬢だ。卒業後も手紙を交わしているし、ロザリア様が給仕を体験したときにも顔を合わせているけれど、こうして街中で偶然出会うのは珍しかった。

「そういえば、あのとき以来ね。ロザリア様はお元気?」

「うん! 元気だよ。あの給仕体験のあとも、いろいろ頑張っていらっしゃるの」

「ふふ、そうでしょうね。あの日のこと、よく覚えているわ」

 クラリスは楽しそうに微笑んだ。

「最初はどうなることかと思ったけれど、最後にはずいぶん真剣に取り組んでいらしたもの」

「うん。ロザリア様にとっても、大きな経験になったと思う」

「それにしても、あなたは相変わらずね。教え子の話になると、本当に嬉しそう」

「えっ、そんなに顔に出てる?」

「ええ、とっても」

 クラリスはくすりと笑った。

「ねえ、少しお茶でもしない? 近くに新しいお店ができたの。あのときは落ち着いて話す時間もなかったでしょう?」

「いいね! 私もゆっくり話したかったんだ」

「決まりね」

 私たちは顔を見合わせて笑い、並んで歩き出した。

◇

 案内された喫茶店は、通りに面した小さなお店だった。

 窓際の席に座ると、クラリスは慣れた様子で紅茶と焼き菓子を注文してくれた。

「それで、最近は何をしているの?」

「ええと……家庭教師のお仕事はもちろんだけど、今は村の学校について調べているんだ」

「村の学校?」

「うん。ロザリア様のご実家の領地に、以前学校が閉じられた村があるの。それで、何かできないか考えていて」

 私はこれまでの経緯を簡単に説明した。

 学校が閉じられた理由や、研究会で聞いた話、ロザリア様が自分から村へ行きたいと申し出て、公爵様から調査の許可をもらったこと。

 クラリスは途中で何度か質問を挟みながら、興味深そうに聞いてくれた。

「……なるほどね。あのときも思ったけれど、ロザリア様は本当に変わられたのね」

「うん! 本当に頑張っていらっしゃるんだよ」

「ふふ、また教え子自慢が始まった」

「ええっ、そんなつもりじゃ……」

「いいのよ。あなたが楽しそうで、わたくしも嬉しいもの」

 クラリスは微笑んでから、少し考えるように紅茶のカップを置いた。

「でも、村の学校を再開するとなると、いろいろ難しいことがありそうね」

「そうなんだ。だから、まずは村の人たちのお話を聞くところから始めようと思ってる」

「それはいいと思うわ。ただ、少し気になることがあるの」

「何?」

「その村には、今、読み書きのできる人がどのくらいいるのかしら」

「……え?」

「学校が閉じられてから数年経っているのでしょう? その間に、子どもたちが誰から教わっていたのか、気になって」

 私は思わず考え込んだ。

 学校が閉じられたことで勉強できなくなった子どもたちがいるかもしれないとは思っていたけれど、家族や近所の人から教わっている可能性もある。

「……確かに、そこまでは調べてなかった」

「例えば、読み書きのできる人が何人かいるなら、その人たちに協力してもらう方法もあるんじゃないかしら」

「……それ、いいかも!」

 私は思わず身を乗り出した。

「先生を新しく雇うのは難しくても、村の中で教えられる人がいるなら、週に一度だけでも授業ができるかもしれない!」

「ええ。ただ、読み書きができることと、人に教えることは別だから、その点は考えないといけないでしょうけれど」

「そうだね……」

 私は頷きながら、鞄から小さな手帳を取り出した。

「ちょっと待って、今の話、忘れないうちに書いておきたい!」

「ふふ、相変わらずね」

 クラリスは呆れたように笑ったけれど、私が書き終えるまで待っていてくれた。

◇

「そういえば、エリシア」

「ん?」

「あなた、村へ行くときの準備は進んでいるの?」

「うん。公爵様が日程を調整してくださっているから、まだ詳しいことは決まってないけど」

「そうなのね。なら、ちょうどよかったかもしれないわ」

「……何が?」

 クラリスは少し楽しそうに微笑んだ。

「実は、わたくしの叔母が、地方の女性たちの仕事を支援する活動に関わっているの」

「女性たちのお仕事?」

「ええ。裁縫や織物を教えたり、仕事の紹介をしたりしているそうよ。王都だけでなく、地方の町へも行くことがあるの」

「へえ……!」

「その活動では、読み書きができないと困ることも多いらしくて、簡単な文字の練習を取り入れていると聞いたことがあるわ」

 私は目を輝かせた。

「それって、すごく参考になりそう!」

「でしょう? もしよければ、叔母に話を聞いてみましょうか」

「いいの!?」

「もちろん。ただし、叔母も忙しいから、すぐに会えるとは限らないけれど」

「それでも嬉しい! ありがとう、クラリス!」

 私は思わず彼女の手を取った。

「ちょ、ちょっとエリシア!」

「だって、すごく助かるんだもん!」

「もう……あなたは本当に変わらないわね」

 クラリスは頬を少し赤くしながらも、嬉しそうに笑った。

「でも、わたくしも少し安心したわ」

「安心?」

「ええ。あなた、昔から何かに夢中になると、自分のことを後回しにするでしょう?」

「……そ、そんなことないよ?」

「学院の試験前、図書館にこもって夕食を忘れたのは誰だったかしら」

「うっ……」

「それから、課題の資料を探しているうちに、別の建物へ行ってしまったこともあったわね」

「そ、それは道が似ていたから!」

「ふふ、そういうことにしておきましょう」

 クラリスは楽しそうに笑った。

「でも、今はロザリア様のために頑張っているのでしょう? それなら、ちゃんと自分のことも大切にしないと駄目よ」

「……うん。ありがとう」

 親友の言葉が、少しだけ胸に沁みた。

 家庭教師になってから、毎日が新しいことの連続だった。楽しいことも多いけれど、責任を感じる場面も増えている。

 そんな中で、昔からの友人にこうして気遣ってもらえるのは、やっぱり嬉しい。

◇

 お茶を終えて店を出ると、通りには昼前の明るい日差しが差していた。

「今日はありがとう、クラリス。すごく楽しかった!」

「こちらこそ。偶然会えてよかったわ」

「叔母様のお話、無理のない範囲でお願いね」

「ええ。聞けたら手紙で知らせるわ」

 クラリスは頷いたあと、ふと思い出したように口を開いた。

「そうだ、エリシア。今度、わたくしの家にも遊びにいらっしゃいな」

「えっ、いいの?」

「もちろん。最近は会えても、お仕事の話ばかりだったでしょう?」

「……うん。そうだね」

「それに、あなたに紹介したい本もあるの。教育について書かれたものなのだけれど」

「本当に!?」

 思わず声を上げると、クラリスはくすりと笑った。

「ほら、そういうところよ」

「えへへ……」

「でも、次に会うときは、お仕事の話ばかりではなく、あなた自身の話も聞かせてちょうだいね」

「……私自身の話?」

「ええ。最近、何が楽しかったとか、何に悩んでいるとか。親友なんだから、それくらい聞かせてほしいわ」

 私は少し驚いたあと、自然と笑顔になった。

「……うん! 約束する」

 クラリスも嬉しそうに頷いた。

「それじゃあ、またね」

「またね!」

 私は手を振り、クラリスと別れた。

 鞄の中には、今日新しく書き加えたメモがある。

 村の中に読み書きのできる人がいるかどうか。そして、クラリスの叔母様が関わっているという、地方での仕事と学びを結びつける活動。

 学校を再開する方法は一つではないのだと、改めて感じた。

(……ロザリア様にも、早く話したいな)

 私は少し足を速めた。

 午後からは、いつもの家庭教師のお仕事が待っている。

 今日もきっと、ロザリア様と一緒に考えることがたくさんあるだろう。

 そう思うと、自然と笑みがこぼれた。

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