↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍をクビになりたい四天王、敵の勇者が辞めさせてくれない  作者: たつき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/25

医務室は、戦場

 ミレーユは、入室から三分で医務局の魔導測定器を開けた。


「あら。ここ、まだ改良できますよね?」

「閉めてください」

「精度が三割上がりますよ」

「閉めてください」

「配線だけでも――」

「出入り禁止です」


 四天王ミレーユ、診察の順番が来るまで医務室から追放。史上初の記録である。

 廊下へ出された彼女は、窓に図面を押しつけた。《第一案》。軍医はカーテンを閉めた。


「……書面で、後日なら?」

「受付へ提出してください」


 ミレーユは頷いて椅子に座り、《第二案》を書き始めた。受付の文官が、見なかったふりをした。


 待合の椅子では、ルカが診察の順番を待ちながら、掲示された測定記録の見本を熱心に読んでいた。


「ゼナ様。先ほどの脈拍記録、拝見しました」

「なんで見るの」

「この波形……一定の律動の中に、時折鋭い変化がある。診察室においてすら戦略を思考しておられる証です!」

「そう」


 実際に考えていたのは、帰りに食べる菓子の在庫である。桃のケーキの季節は終わった。次は栗だ。栗は、いつからか。

 脈が鋭く動いたのは、栗を思い出した瞬間だった。


 なお、そのルカの診断結果は「全身の筋肉痛」以外、完全な健康体だった。


「鍛錬による、名誉の負傷です!」

「負傷です」


 軍医は容赦なく記録した。


 ガルドの計測では、握力計が音を立てて壊れた。


「……今年で三台目です」

「握っただけだ!」

「握らないでください」

「計測では!?」


 以後、ガルドの握力は「計測不能」で記録が統一されている。もう誰も、正確な数字を知らない。


   ◇


 ゼナの番が来た。


 問診から始まった。軍医は記録紙を構え、事務的に問う。


「睡眠時間は」

「四時間」

「運動の習慣は」

「ありません」

「食事は」

「甘味を中心に」

「量は、一日どのくらい」

「……業務量によります」

「量を聞いています」

「業務量に、比例します」

「……立派な数字です。悪い意味で」


 ゼナは頷いた。期待が高まる。この生活記録で健康なはずがない。


 検査の途中、魔が差した。視力検査である。全部読めてしまう自分の目が、憎かった。わざと読み間違えれば、それだけで数値は落ちる。


(……読み間違え。それは、検査記録の改竄)

(これで余計な検査を増やしたら、先生の仕事が増えるだけよね)


 ゼナは、一番下の小さな文字まで正しく答えた。


 ところが。


 視力、両目とも申し分なし。血圧、理想値。心音、明瞭。反射、俊敏。骨密度、良好。

 数値が読み上げられるたび、ゼナの表情が薄く曇っていく。


(なんで。私の生活の、どこに健康の要素があるの)


 軍医が記録紙を置いた。


「検査した身体の数値は、いずれも良好です」

「…………そんなはずは」

「あなたの身体は生まれつき頑丈です。ご先祖に感謝なさい」

「……ちょうど今、恨んでいたところよ」


 二十年のため息が、また一つ増えた。


「――ただし、一点だけ」

「!」

「ストレス数値が、記録的に高い」

「!!」


(きた)


「身体が頑丈でも、寝不足が消えるわけではありません。休養を処方します」


(きた! 診断書! 合法の休み!)


 ゼナは神妙な顔を作った。内側では祝杯を挙げていた。三日か、五日か。いっそ一週間か。


「処方は――三日間の、職務停止。執務室への出入りと、書類の持ち帰りも禁止」


 完璧だった。祝杯が、二杯目に入った。


「ならびに、短時間の散歩。同行は、ガルド四天王」


 祝杯が、割れた。


「……先生。休養では」

「休養です。だから、仕事のほうを止めます」


 軍医は副官宛ての通知にも、印を押した。決裁の代行先と、急務の連絡先が書いてある。どちらにもゼナの名はなかった。


「でも、ガルドでしょう」


 軍医は戸を開け、廊下の巨躯を手招きした。


「午前に三十分、平らな道を歩く。残りは休養。鍛錬も、作業もさせない。いいですね」

「軽度だな!」

「あなたの軽度ではありません」


 ガルドが、ゼナの靴から肩までを見た。

 それから処方箋を受け取り、もう一度読んだ。


「よし。分かった!」


 ゼナには、その「分かった」がどこまでを含んでいるのか、分からなかった。


「……先生。この紙の写しを、私にも」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。