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魔王軍をクビになりたい四天王、敵の勇者が辞めさせてくれない  作者: たつき


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11/27

会議が、会議の速度を超えて増える

 二件目の議題が終わると、ちん。

 三件目のあとにも、ちん。


『関連議題ヲ提案シマス』

『関連議題ヲ提案シマス』


 装置は職務に忠実だった。忠実さが、会議を殺しにきていた。


 しかも提案の質が、たちが悪い。


『関連議題――会議室ノ椅子ノ、座リ心地ノ見直シ』

「椅子は要らん! 立てばいい! 立つと頭が回る!」

「ガルド様、それは」

「なんなら全員でスクワットをしながら」

「しません」


 議題ですらないものが、議論になった。装置がそれも律儀に記録した。


 追い打ちをかけたのは、ルカである。鍛錬明けの震える脚で着席した最年少四天王は、配布された進行表を一目見て、目の色を変えた。


「……この議題の並び順。偶然ではありませんね?」

「偶然よ」

「軽い議題で場を温め、重い議題を中盤へ、最後は全員が合意しやすい件で締める――完璧な心理設計です! 皆さん、この進行表は芸術です。解説します」

「しないで」


 解説は各議題の冒頭に挟まれ、一件につき二分ずつ会議を延ばした。美しい解説だった。美しさに、殺意が湧いた。


 ガルドは長い議題に入ると屈伸を始めた。座りっぱなしは身体に悪い、というのが彼の理屈である。屈伸のたびに床が鳴り、発言者が三回に一回、話を見失った。


 ミレーユは会議中も装置をいじり続けていた。


「今、提案の精度を上げました」

「下げて」

「え?」

「なんでもないわ」


 気づけば、書記の手元には議事録が三種類できていた。正式版、装置の要約版、ルカの注釈版。会議は一つなのに、記録が三つある。


 上座の魔王だけが、終始にこにこと満足そうだった。ときどき「良い議論だ」と頷く。議論が増えるほど、この王は嬉しいのである。よく見ると、手元の紙に何かを書き溜めてもいる。嫌な余白の使い方だった。


(どうして会議が、会議の速度を超えて増えるの)


 ゼナは戦況を分析した。

 装置を止めても、喋る者が四人残る。しかも全員、役に立っているつもりでいる。


 議題は、ついに十九件に達した。

 時計の針は、正午の一時間前を指している。普通にやれば、あと三時間の物量である。午後は死ぬ。白紙の午後が、目の前で埋まっていく。


 ゼナは懐中時計を閉じた。


(……ここからは、戦争と同じ)


 《氷血の魔女》が、会議室で開戦した。


 まず、束ねた。性質の同じ議題四件を「東部施設関連の事前検討」として一括りにし、審議を一度で済ませた。四件が一件になった。

 次に、落とした。結論の出ようがない議題は「次回までの宿題」へ変換し、担当者と期限だけ決めて先送りした。会議で悩まない。悩みは持ち帰らせる。

 そして、個性を使った。


「ガルド。西門の改修、案は二つ。即断できる?」

「できる! 右だ!」

「理由は」

「頑丈そうだ!」

「その案から検証。担当はミレーユ、期限は来週」


「ミレーユ。装置の改良案は議題にしない。代わりに午後、第三実験室を押さえてあるわ。好きに使って」

「まあ……! なんて優しい上司でしょう」


「ルカ。今日の議事録の取りまとめ、あなたに任せる。正式版は一つ。決定事項、担当、期限だけ」

「解説は……」

「別冊。まずは、明日の担当者が困らず動ける記録にして」


 ルカは、自分の書きかけた注釈を見下ろした。


「各部署への確認も、私が?」

「ええ。食い違いがあれば、その場の担当者に聞いて。採決内容は、今から一件ずつ復唱する」

「配布前のご確認は」


 ゼナは、口を開きかけた。

 普段なら「私へ回して」と言う。それをやると、今夜まで軍議が続く。


「ここで確認する。照合と配布は、あなたに任せるわ」


 ルカは新しい紙を一枚出した。


「承知しました」


 今度は、解説を始めなかった。


 発言の長い文官には、開口一番こう求めた。


「結論から言うと?」

「け、結論から申しますと……結論は、まだ」

「なら次回。資料は事前配布で」


 書記が次の資料を差し出した。発言を待っていた列が、短くなり始めた。


 最後に、装置。ちん、と鳴りかけた瞬間、ゼナは卓の下へ手を伸ばし、魔力の供給線を静かに抜いた。


『関連議題ヲ――』


 沈黙。


「故障みたいね」

「あら? おかしいですね。後で直しておきますね」

「……ゆっくりでいいわ」

「優しい……」


 ミレーユが首をかしげている間に、ゼナは残る議題を三件、五分刻みで斬り伏せた。


 正午、三分前。


「以上、全議題の審議を終了します」


 会議室が、しんとした。

 それから、どこからともなく拍手が起きた。ルカは最後の決定事項を書き留めてから、慌てて手を叩いた。


 九年この軍議の記録を務めてきた書記が、そっと目頭を押さえていた。


「……私、この会議が日のあるうちに終わるところを、初めて見ました」


 九年の重みのある涙だった。


(勝った)


 白紙の午後まで、あと三分。ゼナの完全勝利だった。


「見事な進行だった、ゼナ」


 玉座側の席で、魔王がゆっくりと手を打っている。


「皆も揃っておる。ちょうどよい」


 ちょうどよくなかった。

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