⑤ 成層圏クラゲ
「やっぱり、"赤い3号機は宇宙まで行かなくっちゃ"、ですものね?」
尚も続けて由理子が言うが、ジャンヌには意味が分からない。
「えっ、それってどういう……?」
「ああ、サンダーバードは未履修かあ……。」
由理子は少し残念そうだった。
彼女は気を取り直し、目の前の空飛ぶ巨大クラゲたちに注目する。
気がつくと、赤いワーゲンビートルは、すっかり48匹のクラゲたちに取り囲まれていた。どうやら光学迷彩の透明モードは、彼等に通用しないようだった。
「……仕方ないわね。こちらも礼を尽くしましょうか。」
由理子は呟くと、クルマの光学迷彩を解除して、運転席の窓を下げた。
「ジャンヌ、ちょっとハンドルをお願い。」
「どうするんですか?由理子さん。」
「こうするのよ!」
言うが早いか、由理子は逆上がりの要領で、ヒラリとルーフの上に移動し、そこで仁王立ちになった。赤い髪のメイド服の女の子が、赤いワーゲンビートルの上に居る姿は、中々絵になるモノが有った。そしてそのまま、ぐるり360度を眺め回し、全ての巨大クラゲとの意思の疎通を図ったのだ。
彼女はしばらくそのままでいたが、やがて満足したらしく、車内に戻って来た。するとビートルを取り囲んでいたクラゲたちも、三々五々散って行ったのである。
「大体分かったわ。何の問題も無いから帰りましょう。」
彼女はそう言うと、リセットボタンを押し、帰路に就いた。
時空転移中、ジャンヌが由理子に質問する。
「結局、あのクラゲたちの目的は何だったんですか?」
それに対して由理子が答える。
「目的は二つ有ったの。一つ目は、空には我々が居て、常に見張っているって地上の住人……つまり人類に伝えるため。」
「……すると、もう一つは?」
「もう一つは……来るべき事故に備えるためだそうよ。」
「事故……どんな?」
「近いうちに、チェルノブイリっていう場所にある、原子力発電所が爆発するらしいわよ。」
「ええっ!?それ、防がなくていいんですか?」
ジャンヌも、原子力がヤバイものだという事は、履修していた。
「……防いだら、歴史改ざんになっちゃうでしょ?そしたら、さっきの時空管理局のタイムパトローラーに、逮捕されるわ。」
「……ああ。」
「だから前もって、アフターケアになる事を準備したんだって。」
「それは……一体どんな?」
「周辺地域の土壌改良よ。多少の放射能汚染があっても、早めに回復できるように、彼らの触手を使って、とある物質を注入して、地中から強化しておいたんだって。」




