㉙ 次の確認
1996年10月15日の火曜日。時刻は朝9時。
由理子は二カ月前と同じように、赤いビートルで、鷹志と出かけた。今回も、仕事上のとある目的のためだったのだが、直接時空転移システムで移動せずに、せっかくだから普通にナビゲーションを使って、地上の道路をドライブデートしたかったのだった。
ナビの画面には以下のように、目的地の住所が入力してあった。
栃木県那須郡那須町大字湯本182
名護屋市からは、かなり遠い場所である。
つまりそれだけ、鷹志との二人きりの時間を、楽しめるという事だった。
朝は亜空間レストランで、モーニングコーヒーを飲んで、すぐに出発した。
まずは東名高速道路で東京へ。
その後、東北自動車道に入り、途中のサービスエリアで軽食を取ったりしながら、那須インターチェンジまで行き、そこから国道を30分弱クルマを走らせて、とうとう目的地に到着した。クルマを降りて、黙々と歩き、現場に向かう二人。
そこは湯元温泉街からほど近い、那須岳の麓にあたる場所であった。
目的のモノは今、まさに目の前に有った。
「さあ、鷹志。着いたわよ。」得意げに言う由理子。
「ユリちゃん、この大きな岩が見たかったの?」不思議そうに尋ねる鷹志。
そう、二人の目の前には、いわく有り気な怪しい岩が鎮座していたのだ。観光客向けの案内板の説明に拠ると、どうやらコレは、日光国立公園の史跡で、"殺生石"と呼ばれるモノらしい。中々物々しい名称だが、硫黄の匂いが立ち込めるこの場所では、それでなくても不吉に感じさせる。
「……コレはね。」由理子が説明を始める。
「古代の中国、インド、平安時代の日本までも股にかけて、絶世の美女に化けて、時の権力者に取り憑き、国を滅ぼしかけた妖怪、"九尾の狐"の成れの果てなのよ。」
「……ああ、昔話として、何となく聞いたことが有るような……えっ!?ちょっと待って。アレは史実だったの?」
「そうよ。正体を見破られて、この地まで追い詰められ、最後は毒ガスをまき散らす石になったって言う訳。」
「へええ……じゃあ、この大きな岩の中に、今でも九尾の狐が、封印されているんだね?」
「鷹志の言う通りよ。だから今からソレに会うのよ。」
「えっ……どうやって?まさか、コレを勝手に割るとか?」
「いくら私が、雪子姉様に憧れているからって、そこまで強引な事はしないわ。あらかじめサン・ジェルマン伯爵に、岩が割れる……つまり封印が解かれる日付を、聞いてあるのよ。」




