㉕ 猫又伝説
1996年6月1日の土曜日。時刻は14時頃。
久しぶりに、猫王子ミケーネとその正妻バステト嬢が、名護屋テレビ塔の亜空間レストランに遊びに来ていた。
二人はメイド服姿の由理子が、運んで来たコーヒーを飲みながら、奥のテーブルで目立たないように寛いでいた。
「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」
いつものように、にこやかに挨拶をする由理子。
「いやあ、久しぶりに休みが取れてね。それでどうしても、由理子の顔を見たくなって、つい来てしまったのさ。」
白い毛並みのミケーネ王子が、鼻の下を伸ばして言う。
「"由理子の"、じゃなくて"皆さんの"、でしょう?」
隣の席から、夫の頬の毛皮をつまみながら、黒猫のバステト嬢が言う。
「痛てて……そうでした。」
しょんぼりする猫王子。相変わらず、妻の尻に敷かれて居るようである。
「そうだ。もしもお暇でしたら、ちょうど猫族のお二人に、御一緒していただきたい案件が有るんですけど……良いかしら?」
"猫撫で声"で猫に迫る由理子。
「おお、もちろんだとも。由理子のお誘いならば何処へでも喜んで!」
猫王子は二つ返事だ。
「待ちなさい。ちゃんと案件の内容を聞いてからよ。どんな事かしら?」
夫を制するバステト嬢。
「実は、昔から日本に伝わる、"猫又伝説"の調査なんです。」
「猫又……って何かしら?」
「長生きした猫が変身する、猫の怪異らしいんです。どうやらヒトを食ったりしたらしいですよ?」
「それはまた……美食家とは言えませんなあ。いや、決して悪い意味ではありませんよ?まあ由理子さんだったら、食べてしまいたいほど、可愛らしいけど……。」
「貴方、それ、違う意味の"食べる"でしょう?」
すぐに黒猫が、眼を吊り上げて怒りを露わにする。
「ああ、ごめんなさい。もう言いません。」
何だかそんな返事をするミケーネが、哀れに思えてくる。
「宜しかったら、今から早速いかがですか?」
「良いわよ。行きましょう。ちょうど身体も鈍っていたところだし、悪いヤツ相手に、そろそろ暴れたいモードだから、私。」とバステト嬢。
「僕は最初からそのつもりだったから……じゃあ、行こうか?」
猫王子も乗り気だ。
「鷹志も来てね。」
カウンターの方を振り返って、由理子はそう言った。
「えっ、僕も?」
悪魔嫌いの杉浦鷹志は、ドギマギしていた。
「当たり前でしょう?今日は四人で、時空を超えたダブルデートよ!」
由理子はそう言って押し切った。




