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「メジェドの居ない日々」(セーラー服と雪女 第28巻)  作者: サナダムシオ


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㉓ アレの正体

「さて、大御所様。」

「なんじゃ?」

「貴方様は、先程のアレの正体を知っておいでですね?」

「あの肉人の事だな。うん、知っておるぞ。」

「アレは……貴方様の成り損ない。言わば次の予備なんですね?」

「……。」

 その瞬間、家康公の顔から余裕の笑みが消えた。


「貴方自身も、実は本物の家康公ではない。私の推測では、恐らく貴方は3番目の予備ですね?そして家康公に化ける前の、元々の貴方の姿は、先程のあの肉人そのものだった……。」

「な、何故そのような世迷言を言うのか?事と次第に寄っては、許さぬぞ!」

 彼はすっかり焦っていた。

 それに構わず、カグヤは語り続ける。


「……だから人払いをと、ご助言申し上げたのに。1572年三方ヶ原の戦い。1582年の本能寺の変の直後。1600年の関ケ原の戦い。それぞれの局面で、貴方は三度死んでいる。そして今後、1625年の大阪夏の陣で、もう一度、貴方に命の危機が訪れる。アレはその時のための予備として、貴方に次の交代の時期を知らせに来たのですね?しかし、自分の運命から目を背けたい貴方は、あの肉人を山へ追いやった。そうなんでしょう?」


 徳川家康を名乗る者は、もう何も言わなかった。

 かと言って、家臣の者に、カグヤと成雪の抹殺を命ずるでもなく、すっかり脱力してしまったかのように、ただじっとしていた。

「その沈黙は、以上の私の推察の、肯定と受け取らせて頂きます。もっとも、貴方自身も、自分が誰から派遣された者なのか、分からないのでしょうね?私共のような未来人か、神を名乗る者か、それとも異星人なのか……?」


「……そいつは未来人を名乗っていた。ただあんたたちとは違って、体中にトカゲのような鱗が生えていたよ。」

 家康だったその男は、ポツリとそう言った。

「そうですか。貴重な情報をありがとうございます。では、お尋ねしたい案件は全て終了したので、私共はコレで帰らせて頂きます。」

 カグヤがそう言って、成雪とともにその場で立ち上がると、その男もわずかに動く気配を見せた。


「そうそう、念のために申し上げておきますが、ご存じのように、未来人である私共には、銃や弓矢、剣術などの一切の物理的な攻撃は、無効です。どうか貴重な弾や矢の無駄遣いをなさらないよう、ご助言しておきますよ。」

 そう言うカグヤを、忌々しそうな顔で見送る家康の予備の男。


 座敷から回廊に出たところで、カグヤは振り返り、最後にこう言った。

「お近くに潜んでいる皆様、ご安心下さい。今、私が申し上げた事は全て、金髪碧眼の小娘の戯言です。"貴方たちの"徳川幕府は、この後260年以上も続く天下泰平を築くのです。そして"徳川家康"は、死後、"神"として日光東照宮に祭られるのですよ。胸を張って良い生涯でしょう?」


 彼女はニッコリ笑って、成雪とともにその場から立ち去った。

 後には、抜け殻のようになった、現時点の予備の男が残るばかりであった。


挿絵(By みてみん)

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