㉒ 彼は何番目なのか
「さて、恐れながら、申し上げます。」
カグヤが更に言葉を続ける。
「なんじゃ、申してみよ。」
気楽そうに答える家康。
「大御所様は、何番目の家康公なのでしょうか?」
カグヤのそのセリフが、場の空気を一瞬で変えてしまった。屏風の後ろから剣を抜いた者が二人。左右の奥の間から同様の二人。カグヤと成雪の真上の天井裏から、火縄銃を構えた者が一人。そして、後方の回廊には弓矢を構えた者が四人、一斉に現れたのである。
「……成る程。秘密を知った者は、生かして帰さない、という構えなのですね?」
カグヤは尚も、落ち着き払って言葉を続ける。
家康公は、それを黙って聞いている。
成雪は、ただハラハラドキドキしていた。
「更に付け加えるなら、貴方様は、未来からの来訪者に会うのが、コレが初めてではありませんね?」
「何故にそう思うのだ?」
「上様が余りにも、落ち着き払っておられるので……。」
すると彼は、更に少し沈黙した後、突然大声で笑いだしたのである。
「うわっはははっ。気に入ったぞ、小娘!貴様、名は何と言うのだ?どうだ、早速今日から、ワシの側室にならんか?」
「大変勿体ない御言葉ですが、謹んでお断り致します。私の伴侶は、コチラに控えております成雪に決まっております故。」
「そうか。それは残念だのう。」
「それに私の本名はカグヤ・イシュタル。異国の神々の末裔なのです。そしてこの成雪も、正体は遠い異国の神。セト神なのです。」
「ホラ吹きも、そこまで言いきると、面白いのう。」
家康は信じていないようだった。
「では、お見せしましょう。」
カグヤはそう言うと、自分のカラダを、その場で空中浮遊させて回転し、家康に、小さな白い翼が生えた背中を見せた。と、同時に、座ったままの成雪の姿が、長い鼻、長い耳で黒い顔の……セト神に変化したのである。
コレには、流石の家康も驚いたようだった。
「面妖な術を使いおって……まあ、よいわ。皆の者、ここは一旦引けい!」
その家康の一声で、何事も無かったかのように、全ての警備兵が、再び姿を隠した。
「……それで、その未来からの来訪者とやらが、ワシに何用なのかのう?」
「少しだけ、確かめたい事が有るのです。他所で言いふらす事などしませんから、どうぞご安心を。」
「今日初めて会ったばかりの其処許を、信じよと申すのか?」
「真実を言ってみたところで、どうせ誰も信じますまい。」
「違いないな。はははっ。」
家康はまた笑った。




