㉑ 家康公に謁見
カグヤと成雪は仲良く手を繋いで、天守周りの渡り廊下を進む。ただラブラブだから、という訳では無く、その方が二人の電磁防壁を、より強固にするからである。
そして、廊下で歩く家臣たちをやり過ごしつつ、とうとう二人は、家康公の居る、天守の奥座敷に辿り着いてしまった。パッと見たところ、上手い具合に、その場には、城主本人以外、誰も居ないようだった。
そこは、襖や障子が開け放たれ、春の空気が舞い込む、居心地の良さそうな、畳敷きの広い座敷だった。20畳……いや、もっと広いかも?そんな事を考えている成雪とカグヤは、金屏風の前に胡座をかいて、何やら思案顔の家康公の目の前に、並んで正座し、光学迷彩の透明モードを解除した。
大御所は最初、かなり驚いたようだった。知らぬ間に、目の前に二人の人物が、突然出現したのだから、それは無理も無い事ではある。しかし、彼の狼狽した表情は、ほんの一瞬だった。
因みに、その日の成雪の服装は、グレーのフード付きトレーナーに、ブルージーンズ。カグヤは透け感の有る、涼し気な水色のワンピースを着ていた。どちらも曲者ではあるが、およそ強そうな武芸者には見えない。
「とんだ可愛らしい曲者だな。何奴だ?」
家康公は取り乱す事も無く、穏やかな口調で、二人に尋ねる。成雪はてっきり、"曲者だ。出あえ!出あえ!"なんて叫ばれると思っていたので、そんな落ち着き払った彼の態度が、とても意外に思えた。
「私どもの身分を明かす事は、やぶさかでないのですが、その前に人払いをしなくても、よろしいのですか?」
何やら事情を知っていそうな、カグヤがそう言った。
「案ずるな。今、近くに居る者共は、皆、ワシの事情を知っておるからな。」
やはり、パッと見は彼一人きりだが、天井裏や奥の間に、屈強な忍びの者や武芸者が、息を殺して控えて居るのだろう。それが大御所の一声で、この部屋になだれ込む算段だと、想像できる。流石は徳川家康と言ったところか。
しかし、この状況下で、彼が落ち着いている理由は、それだけではない……と、カグヤは睨んでいた。
「では上様に、私たちの素性から申し上げます。」
「うむ。聞いてやるから、申してみよ。」
「私共は、明日よりも明後日よりも、来年よりも、ずっと先の世界……つまり未来からやって来ました。」
「……そうか。」
家康公の返答は、たったそれだけだった。
"何じゃと!?"……では無く、''そうか"。だけだったのである。




