⑳ 怪異の出迎え
その騒動の一部始終を、カグヤと成雪は、上空のビートルの中から眺めていた。そして、家康公の家臣たちが、全員帰るのを見届けた後、成雪が山の中に、ビートルを着陸させたのである。
二人は辺りに注意を払いながら、慎重に車外に出て、フロントドアをゆっくりと閉めた。まだ春の午前中だ。山の中は特に涼しく感じる。
目の前には、件の肉塊が、所在なげにポツンと立ち尽くしている。二人はそちらに、そっと近寄って行った。しかし成雪が、急に立ち止まり、じっとその怪異の事を見つめ始めた。
「どうかしたの?」
優しく尋ねるカグヤ。
「僕、この子の正体が分かった気がするよ。」
即答する成雪。
「ええっ!?でも貴方には、テレパシー能力とかは、無いんでしょ?」
「うん。僕のウチなるセト神の、チカラのせいかも知れないけど、それ以前に、何と言うか……シンパシーを感じるんだ。」
「……どういう事?」
「この子は多分……誰かのクローンの、"成りかけ"だよ。」
「……!?」
「きっと、何処かの施設から逃げ出して来たんだ。」
「そんな……?」
「そしてこの時代に、そんな技術を持っている者が居るとすれば、それはきっと……。」
「……私たちのような未来人か、神を名乗る四次元人か、それとも……ニンゲンでは無いかもしれないわね?」
二人でそんな事を話し合っていると、いつの間にか、上空に大きくて黒い、正方形の座布団のようなモノがやって来ていた。ソレが真下にビームのようなモノを発射し、その光に当たった肉塊は、だんだん空中に浮かび始めたのだ。
二人は深追いはせず、ただソレを見守っていた。その怪異は諦めたのか、さして抵抗もせず、その四角い飛行物体の中に吸い込まれてしまった。やがて用が済んだUFOは、急上昇し、アッと言う間に空の彼方へ消えて行ったのである。
「……追跡も、どうやらここまでのようね?」
「そうだね。この後は……どうする?もう帰る?」
「それもイイけど、たまには先輩たちを見習って、少しだけ強引な事をしてみましょう。日本史が好きな貴方も、確かめたい事が、一つ有るんでしょ?それに私なりにも、一つの推論が有るのよ。」
カグヤはそう言うと、成雪にニヤリと笑って見せた。
二人はクルマに戻ると、ビートルで上空を飛び、駿府城まで帰って来た。そしてカグヤの指示で、光学迷彩を透明モードにしたまま、先程の中庭にビートルを着陸させた。
さらに二人とも、左腕のデバイスを起動させ、ニンゲン用の光学迷彩と電磁防壁の兼ねたモノで、自分たちの姿を隠しながら、慎重に車外に出たのである。




