⑲ 怪異ぬっぺふほふ
「妖しいヤツめ!何者だ!?」
思わず大声で問う家臣。
何の苦も無く、この場にたどり着ける事だけでも不思議なのである。しかし、こんな異様な姿のモノが、まさか大御所様のお客様でもあるまい。ただ時々、おかしな風体の客人が、大御所様を訪れる事があるのも事実だった。
「どこから来た。名を名乗れ!」
曲者には違いないが、万が一客人だった場合にも備えて、彼は刀の柄に手をやりながらも、攻撃を控えて、なおもそう尋ねた。するとその肉塊は、右腕らしき物を上に上げて、無い指で天を指した……ように見えた。その顔には、口も眼も鼻も見当たらない。恐らく喋れないのだろう。
すると、騒ぎを聞きつけた他の家臣たちも集まって来た。ただ、皆でやいのやいの言ったところで、何も解決しそうにないので、家臣の中から率先して、家康公に報告・相談に行く者が現れた。
家康公はちょうど朝食を終えて、少しのんびりしているところだった。襖を開け放して、外の様子を眺めていると、板張りの廊下を、バタバタと慌ただしく駆けて来る者があった。
「大御所様、ご注進申し上げます!」
「なんじゃ?朝から騒々しい。」
「はっ。その点は申し訳なく……実は家臣一同困っておりまして。」
その家臣は、現在の中庭の状況を、かいつまんで説明した。そして最後に「如何致しましょうか?」とお伺いを立てたのである。
最初のうちこそ、面倒くさそうに話を聞いていた家康公だったが、やがて顔色を変えて、その家臣にこう言ったのである。
「其奴は即刻、城外に出し、山の方へ追いやってしまえ!」
「アレが何者か、誰何しなくても、よろしいので?」
些か訝しむ家臣。
「くどいぞ!そのようなモノの正体など、およそ知れておるわ。今すぐ、追い出すのじゃ!」
「御意っ!」
言われた家臣は、慌てて現場に戻ると、大御所様に言われた事を皆に伝えた。さて、それからが一苦労だった。
ただボンヤリ、突っ立っているだけに見えたソイツが、いざ捕縛しようと近づくと、素早く動きまわるのだ。ブヨブヨに見える肉塊のどこに、そんなポテンシャルを秘めているのか、サッパリわからない。
やがて家臣たちは、仕方無く捕まえるのを諦め、ソイツを取り囲んでは、出口へと追い込んで行くスタイルに、作戦を変更した。
そうやって、何とか城外へ追い出す事に成功すると、最後にはその怪異を、近くの山の中まで、追いやったのである。




