⑱ いざ駿府城へ
「でも妖怪だと、いつ、どこに出るのか、分からないのでは?」
サン・ジェルマンが疑問を投げかける。
「それが……分かるんです!」
胸を張る成雪。
「都合のイイ事に、とある有名な人物の前に現れた事が、記録に残っていたんですよ。」横からカグヤがそう言った。
「ああ、徳川家康公ですね?」
伯爵も思い出したようだった。
「はい。流石は伯爵。やっぱり知っていましたね?」
「……なるほど、調査対象として興味深いですね。分かりました。緑のビートルが地下駐車場に有りますから、是非それを使って下さい。」
「やったあ。ありがとうございます、伯爵。」
成雪は小躍りして喜んだ。なかなか子供っぽさが抜けないようだ。
二人は早速駐車場に行き、クルマに乗り込んだ。
今日は成雪が自ら志願して、ハンドルを握った。
この際、普通自動車運転免許の事は、気にしないで欲しい。
そもそも、戸籍の無いクローン人間の彼には、免許の取得など無理な話なのだ。
そして助手席からカグヤが、センターコンソールパネルに目的地の座標を、以下のように入力する。
西暦1609年4月4日
時刻06時00分
北緯34度58分
東経138度23分
目指すは静岡県静岡市葵区。徳川家康が隠居したテイで、大御所としてチカラを振るったという、あの駿府城の中庭だ。
「じゃあ。出発しま~す」
成雪は駐車場からクルマを出すと、勝手知ったる光学迷彩を掛けて、ただちに垂直上昇させ。時空転移装置のスイッチを入れた。
その日、早朝の務めを終えた家康のとある家臣は、天守台の外周を四方から囲む形の、回廊を歩いていた。この回廊には無数の鉄砲狭間が設けられ、外部から天守へ近づこうとする敵を、全方位から迎え撃つ、鉄壁の防衛ラインとして機能していた。
また、万が一そこを突破されても、天守前の中庭に侵入した敵は、周囲の回廊と、中央の天守の両方から、集中砲火を浴びる事になる。そこは、曲者に対する逃げ場のない構造となっており、流石は徳川家康公、といったところである。
しかし、その家臣は、そんな鉄壁の中庭で、その朝、あり得ないモノを見かけたのだった。ソレは一見、子どものように見えた。いや、それくらいのサイズ感のモノだった。東の空から差し込む、オレンジ色の朝日の光を浴びて佇むソレは、ニンゲンと呼ぶには余りにも異様な姿で、まるで肉の塊のようだった。




