⑬ お・も・て・な・し
「えっ、今さら?」
「まあ、そういう反応になりますよね?時々やって来る、自由な客人たちに、振舞うんですよ。今までは、コーヒーか紅茶。他にはせいぜい、ホットミルクとかだったでしょ?少しばかりメニューの幅を、大人向け、夜向けに、広げてもイイかなって。」
杉浦鷹志がそう言った。どうやら彼の提案のようだった。
なら、イイか?香子はそう思った。
ちょうどそこへ、入り口のエレベーターから、フルカネルリ卿の姿の、ウアジェト女王が出て来た。
「ああ、フルカネルリ卿……そっちの姿の時は、この名前でよろしいですよね?お久しぶりですね。」
伯爵がブレンドリーに迎える。どうやら、もうすっかり、わだかまりは無いようだ。
「伯爵、ご無沙汰。ちょっと、地上の様子を伺いに来ました。」彼の姿の彼女も、明るく答える。場面の説明上、何だかややこしいが、仕方が無い。
「アナタも一杯如何ですか?」
「何ですか、ソレ?」
「試作品のカクテルです。鷹志君のお手製ですよ。」
「じゃあ、一杯だけ。」
そう言ってグラスに口につける。
「ああ、コレは!?」
「不味いですか?」心配そうな鷹志。
「いや、アルコール度数が……高い……から。」
そう言うと同時に、フルカネルリ卿の姿が、地下世界の爬虫類族の、ウアジェト女王の姿に戻ってしまった。
明るい時間帯のレストランの席で見る、緑色のスーツを着て、ヌラヌラした鱗に覆われた爬虫類族の姿は、改めて見ると、中々にシュールなモノだった。
「ああ、これは失礼。変身が解除されてしまったな。最近どうも、酒に弱くなってね。」
彼女は頭を掻きながらそう言った。
「いや、むしろ、アルコールにそんな効果が有るなんて、知りませんでした。」鷹志が恐縮した。
「気にしないで下さい。皆さんさえ、私の姿が不快でなければ……。」
「僕らなら、大丈夫ですけど……ねえ?」
その場の面々は皆、頷いた。
(まあ、今後ここで、アルコール飲料を提供する時の、参考にはなったかな。)内心、伯爵はそんな風にも思った。
「……ところで、香子さんは大丈夫ですか?」
「え、アタシ?アタシは酔ったからって、カラダがサボテンになったりはしないわよ?」と彼女は、笑えない"変身ジョーク"を言った。
しかし、その場のみんなが目を丸くしているのに気づいて、「ああ、御免なさい。悪気は無いのよ。やっぱり、少し酔っているみたいね、アタシ。」と言った。恐らく、自分の一人称が、"私"から"アタシ"になっている事にも気づいていないのだろう。




