⑪ ツングースカ大爆発
しかしながら、超スピードの弾丸の、爆発力そのものを抑え込むことは出来なかった。
「まったく……馬鹿みたいに無駄なエネルギーを仕込みやがって。」
忌々しげに雪村は呟いた。
特殊な弾丸一つ一つに、ご丁寧に一撃必殺の威力が込められていたのだ。
だからその場で、大爆発が起こってしまった。
それは、先日の北京のものより、遥かに巨大なモノだったのだ。
ドォーンという轟音が辺り一帯に響き渡り、爆心地は一瞬で火の海に、そして衝撃波で、東京都とほぼ同じ面積の針葉樹林が、ことごとくなぎ倒されてしまった。これが1908年6月30日7時2分の、ツングースカ大爆発である。
1000km先の家屋の窓ガラスが割れ、湧きあがったキノコ雲は、数百km離れた場所からも目撃された。また、爆発した物質が気化して、巨大な夜行雲を形成したため、アジアからヨーロッパにかけて、数夜に渡って夜空が明るく輝き、ロンドンでは真夜中に、灯火無しで新聞が読める程だったという。
更に何より深刻なのは、爆発の際に出た特殊な放射能のせいで、その地域一帯の生態系に異常が発生した事である。樹木や昆虫の成長の停止や、逆にハイスピードの成長、新種の出現などが有ったらしい。
起こってしまった事は覆せない。ソレは別の世界線を勝手に作る、罪深い行為だ。雪村は常々そう思ている。彼はその惨状を諦めて、元の時空に戻った。自室のリビングに戻ると、ソファで待っていた弓子が、うたた寝をしていた。時刻はもう深夜だ。
彼女をお姫様抱っこしてベッドまで運びながら、彼は思わず独り言を呟く。「こんな僕と一緒に居て、キミは幸せなのかい?」
すると弓子が眼を開いた。
「そんなの当たり前じゃない。だからどこに行っても、必ず帰って来てね?」
彼女はそう優しく囁くのだった。
翌日、雪村は名護屋テレビ塔の亜空間レストランを訪問し、サン・ジェルマン伯爵に、そのような現在の自分の状況と、歴史上の、二つの謎の大爆発について説明した。伯爵は、一つ一つの事実に頷きながら、真摯に彼の話を聞き、最後に一言「よく打ち明けてくれました。それは……お疲れ様でしたね。」と言った。雪村は少しだけ、ラクになったような気がした。
「また来ますね。」彼がそう言って、ごく自然に、自力で瞬間移動するのを見ながら、伯爵は呟いた。「ますます、チカラが大きくなっていますね。雪村君の中のウチなる神、アモン・ラーも、気たるべき日に備えているという事でしょうか?」
モンダイのその日まで、あと3年と半年ほどである。




