07 守るってこと
次に現れたのはオークだった。
木々を押し退けるように現れた巨体。
ゴブリンとは比べものにならない威圧感があった。
「……でかいな」
レインは無意識に剣を握り直した。
「今度はオーク2体だ。気張り直せよ」
ボラスの声が飛ぶ。
「おう!」
緊張の中、退くやつは誰もいない。
「盾、前!」
三人の盾役が前に出る。
「グォォッ!!」
振り下ろされる棍棒が重い。
金属が軋む音が森に響いた。
「くっ……!」
盾が押し込まれる。
足が地面にめり込んでいく。
(止めきれていない……!)
レインがそう感じた瞬間だった。
「下がるな!」
ボラスが飛び込み、剣で棍棒を受け止めた。
そして強引に軌道を逸らす。
「1体はこっちで抑える!もう1体を任せていいか、シルフィ!」
「ええ」
短い返答でシルフィが剣を抜く。
次の瞬間にはもう動いていた。
風が揺れる。
気づけば、シルフィはオークの背後に回り込んでいた。
「遅いわ」
一閃。
その剣は風を纏っていた。
刃の周囲に見えない層が走る。
鈍い音とともに首が落ちる。
あまりにもあっさりとオークが倒れた。
(……違いすぎる)
レインは息を飲んだ。
レインはまだこんなにもシルフィとの差があるということを実感した。
だが、考えている暇はない。
「集中しろ!」
ボラスの声で現実に戻される。
「次の攻撃に合わせて止める。俺を含めて4人で受ける!残りは攻撃に回れ!」
「狙いは足だ!」
ボラスの言葉に全員が頷く。
オークが再び棍棒を振り上げる。
(来る……)
その瞬間、
「今だ!」
剣と盾で棍棒をどうにか受け止める。
完全には止まらなかったが、一瞬だけ止まった。
そのわずかな隙を攻撃する。
「いけぇ!」
一斉に踏み込む。
オークの足を狙う。
斬り、叩き、削る。
(硬い……)
ゴブリンとはまるで違う。
一撃では通らない。
それでも攻撃を重ね、数で削る。
(シルフィは……どうやった)
シルフィの一撃を思い出す。
刃を沿うように流れていた風の感覚。
(真似るんじゃない──再現する)
意識を剣に集中させる。
魔力を剣へ流すのでは纏わせる。
風を剣へ乗せる。
「……っ!」
剣がいつもより重い。振り抜く。
浅い。だが──
(通った……!)
確かな手応えがあった。
「続けろ!」
周囲の声が聞こえる。
足への攻撃が重ねる。
「グォッ!?」
巨体が揺れ、膝が崩れ落ちた。
「今だ、首を狙え!」
レインは踏み込む。
さっきよりも風を鋭く強く意識する。
刃の延長として。
剣を振る。
「はぁっ!」
斬撃が走る。
今度は明確に違った。
肉を断つ感触があった。
「グォォォッ!!」
オークが苦しんだ。
レインはその隙を見逃さない。
2撃、3撃を続けて振る。
そこに仲間の刃も重なる。
そして、オークの首が落ちた。
「……やった、のか」
レインは自分の手を見る。
まだ微かに風の感覚が残っていた。
「おぉ、やるじゃねぇか」
ボラスが笑う。
「今のは良かったぞ」
「……私のを真似したわね」
シルフィが少しだけ口元を緩める。
「完全じゃないけど……」
レインは息を整えながら言う。
「でも、少し掴めた気がする」
剣を握る手に確かな実感があった。
オークを倒した頃になると、空は赤く染っていた。
「よし、今日はここまでだ!」
ボラスの声で全員が動き出す。
村に戻る足取りは来た時よりもずっと軽かった。
村に着くと辺りは暗く、夜が近かった。
火の明かりが灯り、どこか温かい空気が広がっていた。
「おい、お前ら」
ボラスが声をかけてきた。
「飯、食っていかねぇか?」
「……いいのか?」
レインは少し驚いて聞く。
「働いたあとの飯はうめぇぞ」
ボラスは笑った。
「そうね、いただきましょう」
シルフィも頷いた。
夕飯は鍋だった。大きな鍋から湯気が立ち上がる。
レインは取り皿に装い、1口食べる。
肉と野菜の香りが口の中に広がった。
「うまい……」
思わず漏れた言葉に周りが笑う。
「だろ?」
誰かが肩を叩く。
その空気はどこか懐かしかった。
戦いの緊張が解けていく。
レインはふと空を見上げた。
(……こういうのが、守るってことか)
ほんの少しだけ分かった気がした。




