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灰と光の調律者  作者: 廣風
1章 成長
6/8

06 守る強さ

階段を上がると、そこにはシルフィが立っていた。

まるで最初から分かっていたかのように、静かにこちらを見ている。


「……見つけたみたいね」


「ああ」


レインは短く答えた。


「母さんが遺してくれたものと真実を」


シルフィは一瞬だけ目を伏せた。


「……そう」


それ以上は何も言わない。


「帰りましょう。話は家で聞くわ」


家に戻る頃には、空はすでに夜の黒に包まれていた。食卓に並んだスープの湯気が、静かに揺れる。


「それで、何があったの?」


レインはゆっくりと口を開いた。


「アイルっていう精霊に会った。母さんの契約精霊だったらしい」


「精霊……まだ残っていたのね」


シルフィの声がわずかに揺れた。


「地下に案内されて、そこで……消えた」


言葉を切り、レインは日記と剣、そしてネックレスを差し出す。


「これが、母さんの遺したものだ」


「……見てもいい?」


レインは黙って頷いた。

ページをめくる音だけが、部屋に響く。

やがて──


「……なるほどね」


シルフィが小さく呟いた。


「何が分かったんだ?」


レインは思わず問いかける。

だがシルフィは日記を閉じるだけだった。


「今はまだ言えないわ」


その言葉は、柔らかいのに拒絶だった。


翌朝。


「村に行きましょう」


唐突な一言だった。


「……理由は?」


「見れば分かるわ」


それだけだった。


村に近づくにつれて、空気が変わる。

ざわつき。緊張。鉄の匂い。

広場には、武装した人間が十人ほど集まっていた。


「討伐隊よ」


シルフィが言う。


「おう、シルフィか」


一人の大柄な男が手を上げた。


「そっちの坊主は?」


「レイン。連れていくわ」


「ほう……面白そうだな」


男は笑い、手を差し出した。


「俺はボラスだ。よろしくな」


「ああ」


レインは短く応じた。


森に入ってすぐだった。


「来るぞ」


ボラスの声と同時に、茂みが揺れる。


「キェェッ!」


現れたのはゴブリンの群れ。五体。


「盾、前!」


三人が即座に前へ出る。金属音と共に、斧が弾かれた。


「抑えろ!」


押し返さない。ただ受け止める。

その一瞬、ゴブリンの動きが止まった。


「今だ!」


左右から剣士が素早く回り込む。

一体。二体。

確実に急所だけを斬り抜ける。

最後の一体が逃げようとした瞬間、


「逃がすな!」


後方の一人が投げた短槍が、喉を貫いた。

あまりにも整いすぎた流れだった。


「……終わりか」


レインは呟いた。だが、違和感が残る。


(遅い……)


自分一人でも、もっと速く終わらせられる。そう思ってしまった。


「効率が悪いな」


思ったことが、そのまま口に出た。

数人が振り返り、空気が一瞬だけ張り詰めた。


「……ほう?」


ボラスがニヤリと笑う。


「言うじゃねえか」


シルフィが一歩前に出た。


「その通りよ。でも理由があるの」


シルフィはレインを見る。


「怪我をしないためよ」


「……怪我?」


「この村にあるのは薬草だけ。重傷になれば終わりよ」


シルフィの声は冷静だった。


「速さより、安全。だから役割を分けてるの」


レインは黙る。

頭では理解できる。

だが──


(それでも遅い)


その考えが消えない。


「なら、やってみるか?」


ボラスが剣を肩に担いだ。


「次はお前も入れ」


「……いいのか?」


「口だけかどうか見てやるよ」


再びゴブリン現れた。今度は六体だ。


「レイン、前に出なさい」


シルフィの声。

レインは一歩踏み出した。


(速く終わらせる)


斬ろうと踏み込んだ、その瞬間──


「待て!」


ボラスが止めようとした。

だが止まらない。


一体目を斬る。

二体目へ──


「右だ!」


ボラスの叫び声が飛ぶ。

遅れた。

背後からの一撃を咄嗟に避けるが、体勢が崩れる。


「下がれ!」


盾役が割り込んできた。

ゴブリンの攻撃が盾に叩きつけられる。

その隙に、周囲が一気に動いた。

流れるような連携だった。

気づけば戦闘は終わっていた。


「……今のが答えだ」


ボラスが言う。


「一人じゃ見えねえもんがある」


レインは黙っていた。

悔しさが残る。


「レイン」


シルフィが静かに言う。


「あなたは強いわ。でも──」


少しだけ間を置き続ける。


「一人で戦う強さと、守る強さは違う」


その言葉が、胸に残った。


森の風が吹く。

レインは剣を握り直した。


(守るための力……か)


母の言葉が、頭をよぎる。


「……もう一回やらせてくれ」


小さく呟いた。

今度は一人じゃない戦い方で。

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