表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と光の調律者  作者: 廣風
1章 成長
4/8

04 真実のための1歩

魔法を教わってから気づけば1年近くが経っていた。

季節がめぐり、レインの身体は確実に成長していた。剣も魔法もそして心も。

半年ぐらい前からシルフィとの本格的な剣の訓練が始まっていた。訓練と言っても型を教わるものではない。ただひたすらシルフィと対峙するものだった。

斬りかかり、受け流され、打ち据えられる。その繰り返しだ。

シルフィは魔法を使わず、身体強化だけで応じていた。それでもレインは一度も勝てていなかった。

だが、確かな変化があった。


「……前より見える」


剣を構えたまま、レインが小さく呟いた。

シルフィの動きが完全ではないにせよ、シルフィの動きを捉えられるようになっていた。


「いい目になってきたわね」


向かい合うシルフィが微笑んだ。

その瞬間、風が揺れた。

次の一撃が来る


「……っ!」


レインは反応する。

剣を滑らせ、受け流す。そしてすぐに反撃した。


「まだ甘い」


軽い声と共に視界が反転した。

気づけば、レインは地面に叩きつけられていた。


「くっ……」


息が詰まる。それでも、以前のような絶望はなかった。確実に届きかけている感覚があったからだ。

そんなレインを見下ろしながらシルフィは息を吐いた。


「……よし」


そして唐突に言った。


「今日は森に行って実践形式でやりましょう」


「えっ……?」


思わず声が漏れた。

森。そこはレインにとって恐怖の記憶が残る場所だった。レインにはどうしても自分が魔物を倒せるとは思えなかった。


「大丈夫よ」


シルフィは振り返らずに言う。


「今のあなたなら、もう十分に戦えるわ」


その言葉に根拠はなかったが、不思議と疑う気にもならなかった。

レインは無言で頷き、あとを追った。


森に入ってすぐに魔物は現れた。


「……いたわね」


小さく呟くシルフィの視線の先は3体のゴブリンだった。

粗悪な武器を持ち、周囲を警戒するように動いていた。


「……あれくらいなら問題ないわ」


シルフィはそう言って剣を一本レインに渡した。


「使いなさい」


レインは剣を受け取る。剣の重みが手に馴染む。

レインは呼吸を整え、1歩踏み出した。


「キェェッ!」


1体のゴブリンが気づいた。石斧を振り上げレインに一直線に突っ込んできた。


(……遅いな)


レインは思った。時間がわずかに引き伸ばされたようにスローモーションに感じた。

振り下ろされる石斧を正面から受け止め流し、


「はぁっ!」


レインは剣でがら空きの胴を斬り裂いた。続けて、二体目のゴブリンも喉元へ刃を滑らせた。最後の一体がレインに向かって斧を振り下ろそうとしていたが、それより早くその首を断つ。

静寂が流れる。

風が、木々を揺らす音だけが残った。


「……勝った……」


自分の手を見つめながら、レインは小さく呟いた。

震えはなかった。恐怖もほとんどない。ただ、妙な実感だけがあった。


「おめでとう!レイン!」


振り返るとシルフィが穏やかに笑っていた。

その笑顔を見てようやく現実が追いついてくる。


(俺は……戦えたんだ)


帰路の途中、レインはふと疑問を口にした。


「……どうして、魔物たちが群れてたんだ?」


「え?」


「魔物って基本単独じゃないのか?」


シルフィの足が止まった。そして、ゆっくり振り返る。


「……兇魔って聞いたことある?」


「……ない」


短い沈黙があった。

森の空気が少しだけ重くなったように感じた。


「さっきのは普通の魔物。でもね──」


シルフィの声が少しだけ低くなる。


「あなたを襲っていたのはそれじゃない」


レインの心臓が嫌な音を立てた。


「兇魔は灰の影響で狂った存在よ。理性を失ってただ壊すだけの化け物」


「……」


「本来なら群れない。むしろ、殺し合う」


その言葉にあの日の光景が蘇った。

血、叫び声、そして──


「でも、あの時は違った」


シルフィの目が鋭く細くなった。


「群れていた」


それが何を意味するか。

言葉にされなくても理解できた。

明らかに異常だ。


「……レインの家へ行ってみない?」


シルフィが静かに言う。

レインは少しだけ迷った。だがすぐに頷いた。


「……行く」


家は変わらずそこにあった。あの日のまま時間が止まってしまったかのように。


「母さん……」


思わず駆け出し、扉を開けた。


「……っ」


言葉を失った。

室内は無惨に荒らされていた。家具は壊れ、床には無数の傷があった。

まるで何かを探していたような痕跡だった。


「探さなきゃ…」


レインは呟き動き出す。目的は母の日記だ。

部屋をひとつずつ探したが日記は見つからなかった。

どこにもない。焦りと焦燥がレインの胸を締め付ける。


(……ない……?)


そのとき、ふと記憶がよぎった。


「レイン、テアモ!」


「なにそれ?」


「フフ、なんでもない。ただ伝えたかったの!」


レインは昔の母さんとの会話を思い出した。まだレインが幼い時の記憶だった。


「……テアモ……」


レインは無意識に小さく呟いた。


「よく来たね、レイン。」


声がした。振り返ってみたが誰もいない。


「誰だ!」


「ここだよ」


視線を落とすと、小さな光があった。


「オイラの名前はアイル。君の母、エルテと契約していた精霊さ。」


薄く僅かに光を放っている。消え入りそうな光だった。


「……精霊?」


「説明している時間は無いんだ。オイラに着いてきて。」


光は壁へ向かい、触れると、


"ゴゴッ……"


鈍い音と共に壁が動き始めた。

現れたのは地下へと繋がる階段だった。


「……こんなものが……」


レインは息を呑みながら足を踏み入れた。

階段の先には一つの小さな部屋があった。机と本棚。そして──


「……あった!」


机の上に1冊の本。母の日記があった。レインは震える手で日記に手を伸ばす。

その背後でアイルの光が揺れた。


「約束は果たしたよ、エルテ……」


掠れた声だった。


「あとは頼んだよ……レイン」


光がゆっくりと薄れていく。


「待って!まだ──」


呼び止める前に完全に光は消えた。

残されたのは、日記とアイルの言いかけた最後の言葉。


「それに──」


その続きを知るものはいない。

だが、確実に何かが動き出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ