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灰と光の調律者  作者: 廣風
1章 成長
3/8

03 魔法

「──まずは、魔法を知ることからね」


シルフィはそう言って、窓の外に視線を向けた。


「昔は精霊の奇跡と呼ばれる力しかなかった。選ばれた者だけが使える、本物の力よ」


「本物……?」


「ええ。でも人間は、それを真似した」


少しだけ、声が冷える。


「誰でも使えるようにしたの。それが魔法」


レインは黙って聞いていた。


「ただし、完全な再現じゃない。威力も、扱える量も、人によって違う」


「……だから強さに差が出るのか」


「そういうこと」


シルフィが短く頷く。


「その歪みが、争いを生んだ。そして──灰の厄災で奇跡は消えた」


シルフィはそれ以上語らなかった。


「じゃあ、やってみましょうか」


さっきまでの冷たい空気が変わる。


「まずは自分の中にある魔力を感じて」


「そんなの……」


「できるわ」


シルフィは言い切った。まるでレインが魔法が使えることがわかるかのように。


「手を出して」


レインは言われるまま差し出した。

シルフィが手を重ねた。

温かい。

レインは目を閉じる。


「……感じて」


その瞬間だった。


「──っ!」


シルフィから何かが流れ込んでくる。

暖かい。けれど、ただの温もりじゃない。

光のような感覚だった。

身体の奥に触れてくる。


「……今のが魔力」


目を開けると、シルフィが微笑んでいた。


「分かる?」


「……なんとなく」


「それでいいわ」


シルフィは小さな結晶を取り出した。

透き通った、ダイヤのような石た。


「これは魔力測定石。自分の器を知るためのものよ」


「器……」


「魔力は無限じゃない。限界を超えれば、暴走する」


シルフィの声が少しだけ重くなった。


「絶対に、無理はしないこと」


「……分かった」


レインは石を受け取る。

思ったより軽くて、すぐに壊れそうだった。


「魔力を込めてみて」


「……やってみる」


目を閉じて、さっき感じたあれを思い出す。

身体の奥にある何か。

それを、押し出すように石に込めた。

石が、光った。

緑、赤、紫。


「……っ?」


変化は止まらず、黒に変化した。

その瞬間──石にヒビが入った。


「えっ──」


石が音を立てて、砕けた。


「……ごめん」


思わず言葉が出る。


「壊した……」


シルフィは少しだけ目を見開いていた。

だがすぐに、いつもの表情に戻った。


「いいのよ」


静かに言った。


「むしろ、納得したわ」


「え?」


「あなた、かなり特別ね」


軽く言うが、その目は真剣そのものだった。


「魔力量は……測れないレベル」


「そんなに……?」


「だからこそ危険なの」


シルフィがレインに一歩近づく。


「自分で制御できなければ、あなた自身が壊れてしまう」


シルフィの言葉が重い。

レインは息を飲んだ。


(魔法があれば……)


ふと浮かぶ、母の姿。


(あの時……助けられたんじゃ……)


そんな考えがよぎった。


「……レイン」


シルフィの声で引き戻される。


「次に行くわ。基礎中の基礎の魔力循環」


シルフィはそう言って、自分の胸に手を当てた。


「魔力を流すんじゃない。巡らせるの」


シルフィが目を閉じる。

次の瞬間、空気がわずかに揺れた。

見えないのに分かる。

何かが、全身を巡っている。


「……やってみて」


レインは意識を集中させる。

さっきの感覚を思い出す。

身体の奥。そこから、手へ。


「……っ」


魔力が流れた。


(できた。次は──)


反対の手へ魔力を流そうとしたが途中で途切れてしまった。


(うまくいかない……)


何度も繰り返した。

だが──片方しかできなかった。


「……難しいな」


レインは息を吐き、言う。


「当たり前よ」


シルフィはあっさり言う。


「だから基礎なの」


その日は、それで終わった。


それからの日々は単調だった。

朝から昼まで、魔力。

午後は、世界のことを学ぶ。

夜は、倒れるように眠る。


それでも。

少しずつ、できるようになっていく。

流す。

巡らせる。

繋げる。


半年が経った。


「……よし」


手応えがあった。

魔力が、身体全体に行き渡る。

途切れず、流れている。

だが──


(違う……何かが足りない……)


「気づいた?」


背後から声がした。

振り返ると、シルフィが立っていた。


「流せてる。でも……それだけだ」


「ええ」


シルフィは頷く。


「あなたのは直線なの」


シルフィが一歩近づき言う。


「循環じゃない。回すのよ」


シルフィが指で円を描く。


「途切れず戻るの」


レインはやってみた。

最初は上手くいかず崩れた。

魔力が途中で途切れる。

流れすぎる。

それでも何度も何度も繰り返し挑戦する。


「……できた」


魔力が円を描いた。

身体の中を魔力が巡る。

初めて魔力が繋がった。


「合格よ」


シルフィが微笑んだ。


「これで終わり?」


レインが聞く。


「まさか」


シルフィは少しだけ笑った。


「ここからが本番よ」


シルフィは一歩踏み出した。


「例えば──」


シルフィの足元に風が集まっていく。

次の瞬間、シルフィの姿が消えた。


「なっ──」


気づいた時には、背後にいた。


加速(アクセル)


何事もなかったかのように言う。


「魔法はイメージよ」


指先で風を散らす。


「魔力に意味を与える」


「できる気がしない……」


レインの正直な言葉だった。


「最初はね」


シルフィは本を差し出した。古びた魔導書だった。


「これは基礎。全部は教えない」


その目が、少しだけ鋭くなった。


「あなた自身で見つけなさい」


レインは本を受け取る。重い。

だが──不思議と、嫌じゃなかった。


「……やるよ」


レインは小さく呟く。


魔法。それは力だ。

だが同時に──扱いを誤れば、壊れるものだ。

レインは、初めてそれを理解した。



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