34 教団との接触
砂が落ちる音だけが響いていた。
第四遺跡の空間に、黒衣の影がゆっくりと降りてくる。人数は少ない。だが軽さがなかった。訓練された気配ではない。もっと異質な、揃えられた意思。
「……やはり、ここにありましたか」
中央に立つ男が言う。
ミリアが一歩前に出る。
「教団ね」
男は否定しない。
「我々は観測者です」
カイルが鼻で笑う。
「観測者が遺跡荒らしてんのか?」
男は淡々と答える。
「観測は、干渉を伴うことがあります」
レインは剣を握ったまま目を細める。
「目的は何だ」
男の視線が装置へ向く。
「回収です」
その一言で空気が変わった。
リュカが小さく呟く。
「やっぱり……間に合わなかったか」
ミリアが振り向く。
「知ってたの?」
リュカは答えない。
男が続ける。
「第四遺跡は始まりの鍵。精霊を再構築するための設計図」
カイルが剣を抜く。
「設計図だと?」
男は静かに頷く。
「人間が管理できる世界を作るための第一歩です」
レインの目が鋭くなる。
「そんなもの、ただの支配だろ」
男は首を振る。
「違います。救済です」
その瞬間だった。
リュカが動いた。
「……来るぞ!」
砂が爆ぜる。
黒衣の集団が一斉に展開する。戦闘は一瞬で始まった。
カイルが前に出る。
「邪魔だ!」
剣が振るわれる。だが黒衣の男は避けない。砂そのものが壁になるように動く。
ミリアが叫ぶ。
「精霊干渉してる!直接攻撃じゃない!」
レインが走る。
「なら核を叩く!」
ルミナスが震える。
『下、気をつけて!』
地面が揺れた。
砂の中から黒い紋様が浮かび上がる。遺跡そのものが反応している。
ミリアが目を見開く。
「この遺跡……まだ生きてる!」
男が言う。
「そうです。ここは起動装置ですから」
カイルが舌打ちする。
「説明してる場合か!」
リュカが黒衣の一人と対峙する。その動きは無駄がない。だが、迷いがある。
(また……見てるだけでいいのか)
一瞬、足が止まる。
敵の攻撃が迫る。
その瞬間、レインが割り込む。
「動け!」
剣が弾く。
リュカは一瞬固まる。
レインが言う。
「見てるだけじゃ何も変わらないんだろ」
リュカの目が揺れる。
(また同じだ。あの時と……砂に沈んだ王国。)
リュカは息を吐く。
「……ああ」
そして動く。
ミリアが叫ぶ。
「まずい!遺跡が反応してる!」
中央装置が光り始める。
男が静かに言う。
「予定通りです」
カイルが睨む。
「何がだよ!」
男は答える。
「鍵が揃いました」
視線がリュカへ向く。
リュカの顔が強張る。
「……俺?」
男は頷く。
「あなたは観測者として最適です」
ミリアが気づく。
「まさか……」
「そうです」
男は静かに言う。
「あなたはこの遺跡に繋がっている」
リュカの呼吸が乱れる。
(やっぱり……そういうことか)
装置がさらに光る。
砂が逆流する。
空間が歪む。
ミリアが叫ぶ。
「このままじゃ全部起動する!」
カイルが言う。
「止めるしかねぇだろ!」
レインは装置を見る。
そしてリュカを見る。
リュカは固まっている。
(また、見るだけか)
その瞬間レインが言う。
「行け」
リュカが振り向く。
「……何?」
レインは続ける。
「お前が知ってるんだろ?なら、お前が決めろ」
リュカの目が揺れる。
黒衣の男が言う。
「選びなさい。観測者として留まるか。人間として動くか」
リュカは目を閉じる。
(また、見て終わるのか)
砂に沈んだ記憶。
叫び声。
誰も救えなかった日。
リュカは目を開く。
「……もういい」
一歩前に出る。
「見てるだけは終わりだ」
リュカが遺跡の刻印に触れる。
瞬間、砂が逆流する。
男が驚く。
「なぜ起動できる!」
リュカは低く言う。
「俺が見てたからだ!全部な」
遺跡が軋む。
装置が一時停止する。
ミリアが叫ぶ。
「今!」
カイルが突っ込む。
「邪魔だ!」
黒衣の戦線が崩れる。
男が後退する。
「……なるほど」
レインを見る。
「あなた達は予想以上です」
ミリアが睨む。
「逃がすと思う?」
男は微笑む。
「いいえ。目的は達成しました」
砂の中から何かが引き上げられる。
小さな黒い結晶。
レインが気づく。
「それが鍵か!」
だが砂嵐が起きる。
視界が消える。
男の声だけが残る。
「核は確認されました。次へ進みます」
そして気配が消える。
砂が静まる。
遺跡は半壊している。
カイルが息を吐く。
「クソ面倒な連中だな」
ミリアは装置を見ている。
「これ……まだ終わってない」
レインはリュカを見る。
リュカは手を見ている。
「……やったのか」
レインは言う。
「やったんだよ」
リュカは小さく笑う。
「そっか」
砂嵐が遠ざかる。
第四遺跡は静かに沈む。
ミリアが言う。
「次の遺跡があるわね」
カイルが言う。
「まだ続くのかよ」
レインは空を見る。
ルミナスが小さく震える。
『まだ……いる』
「何が?」
『もっと上……もっと深い』
リュカが呟く。
「やっぱり……全部繋がってる」
砂の国は終わった。だが、仕組みは動き続けている。
教団は次へ進む。
そして、レインたちもまた進む。




