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灰と光の調律者  作者: 廣風
4章 砂の国アラディア
33/43

33 第四遺跡

砂の記録が消えたあとも、地下の空気は重いままだった。

ただの砂ではない。記憶を含んだ砂。

歩くたびに、足元がわずかに沈む。

レインは周囲を見渡した。


「……終わりじゃないな、これ」


カイルが肩を回す。


「ボス倒して終わり、って雰囲気じゃねぇよな」


ミリアは壁を見ていた。


「むしろ……ここからが本番」


その視線の先に、砂に埋もれた壁に何かが残っていた。

それは刻印だった。

精霊の紋様。

だが、その上から黒い線が幾重にも重なっている。

まるで上書きするように。

ミリアが指先で触れる。


「……これ」


眉が動く。


「教団の術式」


レインの目が鋭くなる。


「やっぱりここにもいるのか」


ミリアは頷く。


「というより……ここにもじゃない。ここが先」


カイルが眉をひそめる。


「どういう意味だよ」


ミリアは壁をなぞる。

黒い砂の流れが、一本の方向へ収束している。


「全部の痕跡が……一点に集まってる」


レインがその先を見る。

砂の奥。

細い通路。

そこだけ空気が違う。

リュカが初めて口を開いた。


「第四遺跡だ」


レインが振り向く。


「何だそれ」


リュカは少しだけ間を置く。

「この国の最初の失敗の場所」


沈黙が落ちる。

ミリアが静かに言う。


「最初?」


リュカは頷く。


「王が精霊を縛る前にもっと古い実験があった」


カイルが舌打ちする。


「まだあるのかよそういうの」


リュカは歩き出す。


「全部ここに繋がってる」


通路を抜けると、空間が変わった。

そこは遺跡だった。

だが、砂漠の遺跡とは違う。

整いすぎている。

まるで管理された施設。

壁は滑らか。床には幾何学模様。中央に巨大な円形の装置。

ミリアの表情が変わる。


「……これは何だ?」


ミリアは息を吐く。


「精霊制御装置の原型」


空気が一段重くなる。

カイルが低く言う。


「つまり……ここが始まりか」


ミリアは頷く。


「教団の技術じゃない……もっと古い。でも同じ思想」


レインは装置を見上げる。

中央に穴が空いている。

そこに何かを入れる構造。

ルミナスが小さく震えた。


『レイン……これ、嫌』


「分かるのか」


『怖い……何かわからないけど怖いの』


リュカが装置の前で止まる。

そして言う。


「教団はこれを探してた」


ミリアが顔を上げる。


「探してた?」


リュカは頷く。


「砂の王はただの結果だ。本当の目的はこれ」


カイルが剣に手をかける。


「つまりどういうことだよ」


リュカは答える。


「精霊を壊すんじゃない。作り直す」


レインが言う。


「作り直す?」


リュカは装置を見上げる。


「人間の意志で動く精霊を。暴走しない。迷わない。壊れない」


ミリアの顔がわずかに強張る。


「……理論としては成立するわね」


すぐに続ける。


「でも、それは生命じゃない」


リュカが小さく笑う。


「そう、だから俺は止めなかった」


カイルが睨む。


「お前、またそれかよ」


リュカは首を振る。


「違う。止められなかった理由が分かった」


空気が変わる。

リュカの声が低くなる。


「この装置は選ばせない。見るだけじゃなく、介入したら壊れる」


レインの目が細くなる。


「どういう意味だ」


リュカは一度息を吐く。


「王もそうだった」


そして続ける。


「触れた瞬間に壊す側になる」


ミリアが静かに言う。


「だから誰も止められなかった」


リュカは頷く。


「そう、見てるしかなかった」


レインが一歩前に出る。


「じゃあ今は?」


リュカはレインを見る。


「今も同じだ」


その瞬間、装置が鳴った。


"ゴォン……ッ"


低い振動。

空間が揺れる。

カイルが叫ぶ。


「おい、起動してるぞ!」


ミリアが急いで解析する。


「違う……起動じゃない。反応よ」


レインが装置を見る。

中央の穴。

そこに何かが反応している。

ルミナスが震えた。


『レイン……来てる』


「何がだ」


『下……もっと下』


リュカの顔が変わる。


「まずい」


カイルが睨む。


「何がだよ」


リュカは言う。


「教団が来てる」


ミリアが即座に判断する。


「ここを見つけたのね」


リュカは頷く。


「第四遺跡の鍵を取りに来てる」


レインが剣を握る。


「鍵?」


リュカは装置を見る。


「これを起動させるための最初の核」


空間が揺れる。

砂が上から落ちてくる。

カイルが舌打ちする。


「敵さんお出ましかよ」


そのとき、奥から声がした。

静かな声。

落ち着いた声。


「……やはりここでしたか」


黒衣の影。

教団の気配。

ミリアの目が鋭くなる。


「来たわね」


リュカが小さく言う。


「遅かったか」


レインは剣を構える。

砂の国の奥。

第四遺跡。

そして本当の戦いが、始まろうとしていた。

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