31 砂塵の王
砂が、立ち上がっていた。
それは形ではない。
巨大な意思の塊だった。
崩壊した王都の記憶が、そのまま化け物になったような存在。
「……これが」
カイルが剣を構える。
「さしずめ、砂塵の王ってところか」
砂が唸る。
音ではない、圧力。
空間そのものが押しつぶされるような感覚。
ミリアが冷たく分析する。
「精霊の残骸と……王の意志の混合体ね。最悪の組み合わせだわ」
砂の王が動いた。
"ドォッ!!"
地面が爆ぜる。
砂の腕がレインたちを薙ぎ払う。
「散れ!!」
レインが叫ぶ。
三人がバラける。
カイルが前に出る。
剣を振るう。
「……っ、硬ぇ!」
砂が刃を吸っている。
斬っても崩れない。
すぐに再生する。
ミリアが叫ぶ。
「普通の攻撃じゃ意味ない!核を探して!」
「どこだよ!」
カイルが跳ぶ。
砂の塊が追う。
レインは走りながら観察していた。
(どこだ)
砂の流れ。
中心。
だが見えない。
全てが核のように見える。
「レイン!」
ミリアの声。
「上よ!」
レインが上を見る。
砂が天井を作っていた。
いや、閉じている。
この空間ごと飲み込もうとしている。
そのとき、リュカが動いた。
「……やっぱり」
小さく呟く。
そして砂の中へ一歩踏み込む。
「おい!」
カイルが叫ぶ。
「何やってる!」
リュカは振り返らない。
「知ってる」
それだけだった。
砂の王が反応する。
"ゴォォッ!!"
リュカへ向かう。
「リュカ!!」
レインが叫ぶ。
だがリュカは止まらない。
砂の中を歩いていく。
まるで道を知っているように。
「そこだ」
リュカが呟く。
「お前の中心は」
砂が爆ぜる。
リュカの足元が崩れる。
だがその瞬間、砂の流れが一瞬止まった。
ミリアが目を見開く。
「今の……」
レインが気づく。
「流れが変わった」
カイルが叫ぶ。
「今だろ!」
レインが走る。
「カイル!」
「ああ!」
二人が同時に動く。
砂の動きの隙間へ。
砂の王が暴れる。
無数の腕。
壁。
刃。
全部が襲いかかる。
ミリアが詠唱する。
「流れを固定する!」
空間が一瞬だけ重くなる。
砂の動きが鈍る。
レインが叫ぶ。
「見えた!」
中心の黒い核。
王の意志。
カイルが前に出る。
「邪魔だ!!」
砂を斬る。
道を作る。
レインが踏み込む。
ルミナスが光る。
『レイン……!』
「大丈夫だ」
剣を構える。
だがその瞬間、砂の王が声を出した。
「……なぜ」
空間が震える。
「なぜ……止めた」
レインの動きが一瞬止まる。
声ではない。
記憶だ。
砂の中に映像が浮かぶ。
王がいた。
崩壊する国。
叫ぶ人々。
そして王が手を伸ばす。
「守るためだ……!」
その声にミリアが目を細める。
「またこれね」
カイルが吐き捨てる。
「全部それだな」
砂の王が続ける。
「守るために……縛った。守るために……壊した。それでも……間違いではないはずだ」
レインの手が止まる。
(……まただ)
リヴィエラと同じ。
アラディアも同じ。
リュカが呟く。
「違う」
初めて強い声だった。
「それは守るじゃない」
砂が揺れる。
リュカの声が震える。
「怖かっただけだろ。失うのが怖くて、見ないふりをしただけだろ」
砂の王が激しく反応する。
"ゴォォォォッ!!"
暴走し空間が崩れる。
「まずい!」
ミリアが叫ぶ。
「制御が切れてる!」
レインは見た。
核が苦しんでいる。
(……終わらせるしかない)
だがそのとき、ルミナスが震えた。
『……レイン』
「何だ」
『これ……泣いてる』
レインの目が揺れる。
砂の王はただの敵じゃない。
壊れた記録だ。
止まったままの後悔だ。
カイルが叫ぶ。
「迷うな!!ここで止めなきゃ全部飲まれるぞ!!」
ミリアも言う。
「感情じゃなくて結果で動いて!」
レインは核を見る。
砂の王を見る。
リュカを見る。
リュカは言った。
「俺は見てた。だからわかる。これは救いじゃない」
レインは剣を握る。
「……ああ」
小さく息を吐く。
「分かってる」
踏み込む。
ルミナスが光る。
砂が止まる。
一瞬だけ、世界が静止する。
「眠れ」
剣が核に突き刺さる。
砂が叫ぶ。
「……やめろ」
崩壊。
砂の王が砕ける。
空間が崩れ落ちる。
砂がただの砂に戻る。
空気が軽くなる。
カイルが息を吐く。
「……終わったな」
ミリアは目を細める。
「記録も、ここで終わりね」
レインは剣を下ろす。
だが顔は晴れない。
砂の中に、声が残っていた気がした。
(……守りたかった)
リュカは静かに立っていた。
何も言わない。
ただ、見ていた。
カイルが言う。
「で、どうするんだよこれから」
ミリアは答える。
「まだ終わってないわ」
リュカが前に出る。
「ここから先が本番だ」
レインが振り向く。
「何がある」
リュカは砂の奥を見る。
「作ったやつがいる」
そして遠く、砂の奥深く何かが動く。




