表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と光の調律者  作者: 廣風
4章 砂の国アラディア
30/30

30 砂に沈んだ記憶

地下へ降りた瞬間、空気が変わった。

熱がない代わりに、重さがあった。

砂が空気そのものに混ざっているような感覚。


「……ここ、息しづらいわね」


ミリアが小さく言う。

カイルが壁に手を当てる。


「遺跡ってより墓だな」


レインは何も言わず前を見ていた。

リュカが先を歩いている。

迷いがない。まるで何度もここに来たことがあるような歩き方だった。


「こっち」


レインはその背中を見ながら問いかける。


「お前、ここ知ってるんだな」


リュカは少し間を置いた。


「知ってるっていうか……見てた」


「何をだ」


リュカは答えないまま歩き続ける。

その沈黙が逆に答えだった。

通路を抜けた先には広い空間が広がっていた。

巨大な地下空洞。かつての王都の裏側。

いや、もっと正確には───


「捨てられた都市」


崩れた建物。砂に埋もれた広場。途中で止まったままの市場跡。

すべてが時間ごと止まっている。


「……これ、自然に埋まったわけじゃないわね」


ミリアが呟く。

壁に近づくと、そこには文字が刻まれていた。

古い王国語。

そしてその上に黒い砂の跡があった。


「上書きされてる……」


「何がだ?」


カイルが聞く。

ミリアはゆっくり答えた。


「歴史そのものよ」


その言葉にレインが反応する。


「歴史?」


ミリアは壁をなぞる。


「記録が残ってる。でも途中で改ざんされてる」


「誰がそんなことを」


その瞬間だった。

リュカが初めて立ち止まった。


「王だよ」


短い言葉。

だがその言葉には重みがあった。

砂が風もないのに揺れる。

空気が過去へ引き戻されるように変質していく。

リュカが壁を見る。


「ここは昔、アラディアの中枢だった。豊かで、何も問題のない国だった。少なくとも……外からはそう見えてた」


レインが問う。


「中では違ったのか」


リュカは少しだけ笑った。


「精霊がいた」


その一言で空気が変わる。

ミリアの目が細くなる。


「やっぱりね」


リュカは続ける。


「この国は砂漠じゃなかった。水もあった。森もあった。でも王の間違った選択が止めた」


カイルが眉をひそめる。


「止めた?」


リュカは頷く。


「精霊を制御する実験を始めたんだ。国を守るためって言ってた」


その言葉にレインの視線が鋭くなる。

リヴィエラと同じだ。

また守るための破壊。

その瞬間、空間が揺れた。


「……っ?」


ミリアが振り向く。

壁が崩れているわけではない。

違う。

映像が浮かび上がっていた。

砂の中から、光のように。

そこには、かつてのアラディアがあった。

青い空。

広がる都市。

水路。

人々の笑い声。

カイルが呟く。


「……別世界じゃねぇか」


だが映像はすぐに歪む。

黒い砂が空に走る。

水が止まる。

精霊が暴れる。

人が逃げる。

叫び声。

崩壊。

リュカもその光景を見ていた。


「俺はここにいた」


レインが振り向く。


「……お前」


リュカは静かに言う。


「見てたんだ……全部」


映像の中に王がいた。

巨大な装置の前。

その中心に精霊が縛られていた。

黒い鎖。

光が歪む。

ミリアが息を呑む。


「……強制リンク」


リュカが答える。


「王は救おうとした。砂漠化を止めるために。でもそれは間違った選択だった。精霊は壊れ、暴れた」


映像が崩れる。

世界が砂に戻る。

レインが一歩前に出る。


「それで……お前は何をしてた」


リュカは少しだけ目を伏せた。


「見てた」


「……またかよ」


カイルが吐き捨てる。

リュカは続ける。


「動いたら止められたかもしれない。でも動けなかった」


その言葉は嘘じゃなかった。

ただの事実だった。

ミリアが小さく言う。


「……つまり、あなたも原因の一部ね」


リュカは否定しない。


「そう、だよ」


レインが言う。


「今は?」


リュカは顔を上げる。


「今は違う。今度は見るだけじゃ終わらせない」


その瞬間、奥の空間が脈打った。

地面が揺れる。

砂が動く。


「来るぞ」


カイルが剣を抜く。

ミリアが周囲を見る。


「中心が反応してる……!」


レインは奥を見た。

そこにあったのは巨大な砂の核。

そしてその中に何かが眠っていた。

リュカが小さく呟く。


「……起きるな」


だが遅い。

砂が裂ける。

音がする。

まるで記憶そのものが目を覚ますように。

レインが剣を構える。


「ボス戦、ってやつか」


カイルが笑う。


「嫌な予感しかしねぇな」


砂が爆ぜる。

影が立ち上がる。

リュカが一歩下がる。

その顔には、初めて感情があった。

恐怖じゃない。

後悔だった。


「……来るな」


砂の王が目を開く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ