27 砂に埋もれた国
そこには灼熱の風が吹いていた。
どこまでも続く砂の海。
かつて大国と呼ばれたアラディア王国は、今や砂嵐の向こうに霞む影のようにしか見えない。
レインたちは高台に立ち、その光景を見下ろしていた。
「......」
誰もすぐに言葉を発しなかった。
風が吹き、砂が舞う。
遠くでは巨大な砂嵐がゆっくりと渦を巻いていた。
まるで世界そのものが少しずつ砂に飲まれているようだった。
「想像以上ね」
最初に口を開いたのはミリアだった。
ミリアは帽子を押さえながら目を細める。
「ここまで崩壊しているなんて」
カイルが鼻を鳴らす。
「国ってより墓場だな」
その言葉に誰も反論しなかった。
眼下に見える街道は半ば砂に埋まり、建物の残骸らしきものが点々と顔を出している。
日の気配も少なく、生きている土地とは思えなかった。
レインは遠くの砂嵐を見つめる。
「本当に全部、砂に飲まれたのか」
「全部じゃない、まだ生き残っている集落もある。でも年々減っているらしいわ」
風が吹き、砂が頬を打った。
その時だった。
『……嫌な感じがする』
ルミナスの声だった。
「どうした?」
レインはルミナスに返す。
『ここ……変。すごく古い匂いがする』
レインの表情がわずかに変わる。
ルミナスがこう言う言い方をする時は大抵何かある。
『昔、ここで何かあった、そんな気がする…….』
そこまで言ってルミナスは黙った。
何かを思い出しかけているようだった。
しかし続きは出てこない。
レインは胸の奥に小さな違和感を覚える。
最近のルミナスは少し変だ。
リヴィエラの事件以降、ときどき知らない記憶を見ているような反応をする。
本人も理由が分かっていない。それが少し気になった。
「行くぞ」
カイルが歩き出す。
「日が落ちる前に宿を見つけたい」
「賛成ね」
ミリアも続く。
三人は高台を下り始めた。
砂利が崩れ、乾いた大地が足元で音を立てる。
そしてしばらく進んだ頃だった。
「......ん?」
レインが足を止める。
風の音と砂の音の中に混じり、それ以外の音が何か聞こえた気がした。
「どうした」
カイルが振り返る。
「いや......今」
誰かに見られている気がした。
レインは周囲を見回す。
岩場や砂丘。崩れた石柱。
人影はなかった。だが確かに感じとった視線。
じっとこちらを見つめる何者かの気配。
ミリアも気付いたらしい。
「......いるわね」
カイルが剣に手をかける。
空気が張り詰める。
数秒の沈黙。
やがて、風が強く吹き、砂煙が舞い上がる。
視界が白く染まる。
そして誰もいなくなっていた。
「逃げたか」
カイルが舌打ちする。
ミリアは眉をひそめた。
「盗賊?」
「違う気がする」
レインは首を振る。
あの視線には敵意がなかった。
もっと別の何か。
観察するような。
確かめるような。
そんな視線だった。
その頃、数百メートル先の崩れた遺跡の影。
一人の青年が砂丘の上に立っていた。
フードの奥から見える瞳が静かに細められる。
「......来た」
風が髪を揺らす。
彼はレインたちの背中を見つめていた。
長い間待っていたものを見るように。
「やっぱり、同じだ」
青年は目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは崩壊の日。
砂に沈んだ王国。
叫び声。
黒い嵐。
そして、何もできなかった自分。
「......今度は見てるだけじゃ終わらない」
静かに呟く。
青年――リュカ・フェインは再び目を開いた。
その瞳はレインを見据えていた。
まるでずっと前から知っていたかのように。
そして遠く砂嵐の向こう。
埋もれた王都アラディアの最深部。
誰もいないはずの神殿で黒い光が脈打った。
まるで何かが目覚めるように。
ゆっくりと確実に砂の国は再び動き始めていた。




