表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰と光の調律者  作者: 廣風
3章 水の都リヴィエラ
21/30

21 中央市場

下層を抜けた瞬間、空気が変わった。

湿った臭気は薄れ、人の数も増える。

「……静かすぎるな」


レインが呟く。

本来なら賑わっているはずの市場。だが今は、ざわついているだけだった。

活気ではない、不安のざわめき。


「水、足りないぞ!もっと回せ!」


「無理だって言ってるだろ!上から制限かかってんだ!」


怒号が飛び交う。

水を巡って、言い争いが起きていた。


「……始まってるわね」


ミリアが小さく言う。


「何がだ」


カイルが聞く。


「崩壊よ」


あっさりと答えた。


「資源が減れば、人は争う。それだけの話」


レインは市場を見渡す。

桶に入った水。だが、その色は薄く濁っている。

それでも、人は並ぶ。


「……あれ、飲むのか」


「選択肢がないのよ」


ミリアが言う。


「死ぬか、汚染を受け入れるか」


ルミナスが、弱く揺れる。


『……いやだ、きらい』


その声には、はっきりとした拒絶があった。


「ふざけるな!」


怒鳴り声が聞こえた。

振り向くと、男同士が掴み合っていた。


「俺の番だろうが!」


「子供がいるんだ、譲ってくれ!」


水桶を巡っての争い。

周囲の人間も、止めない。

ただ、見ている。


「……」


レインが一歩出ようとする。


「やめなさい」


ミリアが止める。


「介入しても意味はない」


「放っておくのか」


「ええ。根本が解決してない以上、同じことが繰り返されるだけ」


冷たい現実だ。

カイルが腕を組む。


「正論だな」


レインは動かない。

拳を握ったまま。

やがて、力を抜いた。


(……今は違う)


視線を外す。


「情報を集めるぞ」


短く言う。

ミリアが頷く。


「それが正解」


市場を歩く。

耳に入るのは、不安と噂ばかりだ。


「上流の水がやばいらしいぞ」


「研究塔で何かやってるって話だ」


「最近、変な連中も出入りしてるって……」


レインの足が止まる。


「研究塔?」


ミリアが反応する。


「……場所は?」


近くの商人に聞く。

男は警戒しながらも答えた。


「街の奥だよ……水源の近くにある塔だ。昔は浄水の管理してたんだが……」


言葉を濁す。


「今は?」


カイルが聞く。


「分からねえ。ただ……」


声を潜める。


「最近、夜になると光ってるんだよ。普通じゃねぇ光だった」


ミリアの目が細くなる。


「……やっぱり」


小さく呟く。

レインが見る。


「何か知ってるのか」


ミリアはすぐには答えなかった。


「仮説だけど」


静かに言う。


「この汚染、自然じゃないわ」


空気が変わる。

カイルが低く言う。


「……人為的ってことか」


「可能性は高い」


ミリアは頷く。


「水の性質変化、進行速度、拡散の仕方……どれも不自然すぎる」


レインの眉が寄る。


「……誰かがやってるってことか」


「ええ。そして、その中心が研究塔」


ルミナスが、強く揺れる。


『……そこ、いや』


レインの中に響く。


『すごく、いや』


レインは小さく息を吐く。


(当たりか)


そのときだった。

近くで、小さな騒ぎが起きる。


「倒れたぞ!」


振り向くと、一人の女性が地面に倒れていた。


「……っ」


レインが駆け寄る。

呼吸が荒い。

腕に、黒い筋。

さっき見たのと同じだった。


「またか……」


カイルが低く言う。

ミリアが一瞬だけ見る。

だが何もしない。


「……行くわよ」


冷静な声で言う。

レインが振り向く。


「助けないのか」


ミリアはレインを見る。

その目は、揺れない。


「あなた、さっき選んだでしょ」


静かに言う。


「全部は救えない」


その言葉は、重かった。

ルミナスが、弱く揺れる。


「……くるしい」


レインの中に響く。

レインは歯を食いしばり立ち上がる。


「すまない……」


レインは小さな声でいった。


「……ああ、分かってる」


ミリアはそれ以上何も言わない。

ただ背を向ける。


「行きましょう」


カイルが歩き出す。

レインも続く。

背後に残るのは、倒れた人とざわめき。

そしてどうにもできない現実があった。

市場を抜ける。

街の奥へ行く。

遠くに、塔が見える。

水の流れの先に建つ、高い石の建造物。

だがどこか、歪んで見えた。


「……あれか」


カイルが言う。

ミリアは静かに頷く。


「ええ」


そして、小さく呟く。


「……人間も加害者なのよ」


レインはその言葉を、黙って受け止めた。

ルミナスの光が、わずかに揺れる。


『……かなしい』


その声は、誰にも届かない。

ただ、レインの中にだけ響いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ