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灰と光の調律者  作者: 廣風
3章 水の都リヴィエラ
18/30

18 水の異変

街道は静かだった。森を抜け、開けた道をレインとカイルは進んでいる。


「……思ったより平和だな」


レインがぽつりと言う。


「何も起きない方がいいに決まってる」


カイルは前を向いたまま返す。

レインの隣で小さな光がふわりと揺れる。ルミナスだ。


『でも、少し変』


ルミナスが言った。


「なにが?」


レインが小さく返す。

カイルが横目でレインを見るが何も言わない。


『空気、それに水のにおい』


レインは足を止めかけて、やめる。


「……分かるのか」


『うん。少しだけ、にごってる』


カイルが短く言う。


「気のせいじゃないよな」


「分かるのかよ」


「こういうのには慣れてる」


嫌な慣れ方だな、とレインは思ったが口には出さなかった。

しばらく歩くと、小さな村が見えてくる。


「……寄るか。情報がいる」


三人はそのまま村へ入った。

井戸の前に人が集まっていた。


「またかよ……」

「昨日より濁ってるぞ」


ざわつく村人たちの声が聞こえた。

レインが井戸の中を覗き込む。

水は、うっすらと濁っていた。

黒、とまではいかないが明らかに普通ではなかった。


「これ、飲んでるのか?」


「仕方ねえだろ、水源はここだけだ」


村人が苦い顔で言う。


「煮れば平気だとは思うが……」


歯切れが悪い。


「最近、体調崩すやつも増えててな」


その言葉に、レインの眉が動く。

ルミナスが井戸の上にふわりと浮かぶ。

じっと、水を見つめる。


『……いやな感じ』


小さく呟いた。

その瞬間だった。

バシャッ、と水が跳ねる。


「っ!?」


井戸の中から、何かが飛び出した。

水の塊のような存在。だが、形が歪んでいる。


「なんだこれ……!」


村人たちが後ずさる。


「下がってろ!」


レインが前に出る。

水の塊がうねり、弾けるように襲いかかってきた。


「チッ!」


剣で弾くが手応えが軽い。


「形が安定してない……!」


カイルが横から踏み込む。

一閃。

水が散るがすぐに集まり直す。


「面倒だな」


ルミナスが前に出る。


『……少しだけ、やる』


光が揺れる。

光が水に触れた瞬間、ジュッ、と音がした。


「っ……!」


水の塊が大きく歪む。

動きが鈍った。


「効いてる!」


レインが踏み込む。

核のような部分を捉え、一気に斬る。

水が崩れ落ち、そのまま動かなくなった。


「……なんだ今のは」


村人が呟く。

ルミナスが小さく言う。


『……精霊だった。でも、おかしい』


レインはゆっくり息を吐いた。


「またかよ……」


カイルが井戸を見下ろす。


「軽度だな」


「軽度?」


「これで済んでるなら、まだマシな方だ」


嫌な言い方だった。


「上流があるはずだ」


レインが村人に向く。


「この水、どこから来てるんだ?」


「ああ……川だよ。この先の」


少し迷って、続ける。


「もっと上流に、大きな街がある」


「街?」


「水の都リヴィエラって呼ばれてる」


その名前に、空気がわずかに変わる。


「最近、その街の水がおかしいって噂でな……」


「原因はそこだろうな」


カイルが短く言う。

レインは空を見る。


「……決まりだな」


ルミナスが小さく揺れる。


『……いやな予感、する』


「俺もだよ」


レインは苦笑した。


「でも行くしかない」


カイルはすでに歩き出している。


「最初からそのつもりだ」


「だよな」


レインも続く。

村を出る三人。

背後で、村人たちのざわめきが続いていた。

風が吹く。

わずかに、水の匂いが混じっていた。

それはまだ弱い。

だが確かに広がり始めていた。

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